一夜あけて
博士は、いつも黒いお弁当箱のようなパソコンを持ち歩いている。私は、10年来のレッツラー(パナソニックのLet's noteシリーズを愛している人)なので、このあたりは意見が合わない。博士は赤いポッチがお好きなようである。パソコンだけなのはチト心配だが。
そんな博士も保釈直後はパソコンが無い。全部差し押さえられてたんだからあたりまえか。ということで、珍しくパソコンはおろか携帯電話もない丸腰の状況で博士はホテルに宿泊した。
博士には、翌日の12時にホテルのフロント前で待ち合わせることで約束して私は帰った。待ち合わせが12時になったのは、疲れているであろうから、朝はゆっくりして朝食でものんびりとらせてあげようという配慮と、不動産の決済に立会いが入っていた(保釈が6月1日に認められることを前提にスケジュールを組んでいたのが、強気な私らしい。)ので昼からしか都合がつかなかったことからである。
前日の祝杯ですこし疲れ気味のまま、不動産決済は進み、予定よりも少し長引いた。私がホテルについたのは10分ほど遅れてのことである。
フロントを見渡すと、みな身なりのきっちりした人ばかりである。博士が見あたらない。吹き抜けになっている2階から1階を見渡した。喫茶店にもいない。
「もしかして保釈取消しで身柄を持って行かれたのか?」
「ジャーナリストの突撃をくらったか?」
「どこかに逃亡したのか?」…博士だけにそれはありえん。
「まだホテルで寝てるか?」
いろいろな心配が、頭のなかを駆けめぐった。嫌な汗がでてきた。喉が急に乾いてきた。
フロントに博士がどうなっているか尋ねた。博士はすでにチェックアウトした様子である。
「まだ、遠くには行ってないはず」
私は2階からタクシー乗り場に出て、不審な自動車がいないか確認した。特になにも見あたらない。
「もしかして、待ち合わせ場所を間違えたのか?」
事務所に電話をして、博士が事務所に来ていないか確認してみた。来ていない。事務所の場所が分かるわけがないので当たり前である。
1階に降りて探してみた。いない。
ホテルを出て周辺のベンチを探してみた。ここにもいない。
このあたりで私の心臓からドキドキという鼓動が聞こえてきた。
かくなる上は聞き込みしかない。私は、喫茶店の1階のウエイトレスに尋ねた。
「髪の毛ボサボサでボロな鞄をもった人を見ませんでしたか?」
私の聞き方もたいがいである。こんな聞き方では、秋葉原では多すぎて答えようがないが、ここは高級ホテルである。ウエイトレスはすぐに答えた。
「たぶんあの人だと思います。あちらに座ってますよ。」
私は、ウエイトレスに導かれて奥に行った。そこにいたのは、
見つかりにくい奥まったところで、川を愛でながらコーヒーを飲んでいる博士であった。
…そんなところで風流なことをしててどうするんだ!
私、「なんで、ちゃんとフロントで待たないんですか。」
博士「いやーすることも無くて暇だったし。」
私「だったら、見つけやすいところにいてください。」
博士「そういやそうですね。ハハハ!」
博士はのんきそうに笑った。
それから、博士と私は一緒に昼食をすることにした。警察では生魚は食べれなかったということで、ちょっと贅沢に寿司屋である。しかし、大衆的なお店にしか行く勇気がないところが博士と私である。
「いやー、久々の外の世界なんで、何食っても美味いですねぇ。ハハハ」
博士はご機嫌である。そんな博士を見て、私もそれ以上言うことを止めることにした。
その日は、事務所に立ち寄って、寄付金の残りを引継ぎして、事務連絡と、保釈の説明をして、最後に元気な姿を支援者のみんなに見せるために記念撮影をして、博士は東京に帰って行った。
これが記念写真で左が博士、後ろが桂団長なのだが、私の目が微妙に怖いのは、こんなことがあったからなのかもしれない。

