あたーにーあっとろーとは?

  • Winny制作者金子勇氏
    こと博士の素顔があまりにも面白いので、弁護人である私の目から、事件を振り返ってつれづれなるままに書きつづってみる、壇弁護士の事務室のスピンアウトブログです。

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2014年1月 3日 (金)

激しい尋問の中で

Winny事件は当初(10回公判くらいまで)は、えんえんとおまわりさんの尋問を続けた

が、それには理由があった。

検察が証拠請求する捜査報告書はかなりデタラメなものが多かった。
書かれているとおりに設定すれば、インターネットにつながらないはずの、正犯の自宅からの送受信の実験とか、意味不明の著作権侵害かの調査とか、2ちゃんねるのスレッドをむやみやたらと印刷して内容も確認せずに、著作権侵害について話し合うスレッドだと言いだす類のものなど。

というわけで、弁護側は当然、証拠を不同意する。検察は、だったら、担当のおまわりさんの尋問をするという流れだったのである。

(注) 検察側の証拠は、原則として弁護側の同意がなければ証拠として採用できない。ただ、検証調書や鑑定書などのような客観性の高いものは、例外的に作成者の尋問を経て証拠採用出来る。

一般的には、おまわりさんの意見書の類は、普通証拠にならない。

しかし、ここはアウェイゲームの京都地裁である。

おまわりさんの意見書の類のようなものでも、検証調書に準じて証拠採用するわ、尋問調書に添付して実質的に証拠として扱うわである。やりたい放題された。

証人のおまわりさんは、大挙して法廷で傍聴し、尋問が終わるや、裁判所の廊下で、「お前はダンに勝ったぞ」とか言いあって喜び出す始末である。

弁護側は、この野郎と思っていても、することがない。

この時期は、裁判所が幇助成立の基準として何を採用するのかや、検察側の意図するところを探りつつ、局地戦を続けていたというところである。

当初の尋問の結果、捜査はT警部補の指揮により行われており、侵害率調査等の捜査報告書において、侵害か否かの判断をしたのもT警部補だということが解った。

T警部補の尋問が1つの大きな山場になる。

T警部補の尋問が行われたのは、尋問が始まってからずっと後の第10回公判のことで、担当者は、私であった。

尋問が決まってから、尋問の夢は何度も見た。

夢の中の証人は完璧である。こちらの用意した尋問に対して、こちらの意図を見透かしたかのような回答をしてくる。焦ったところで目が覚める。そんなことのくり返しである。

ちなみに、私は、重要な尋問の当日には、食事をしないことが多い。

尋問のときは、証人の仕草や裁判所の表情を考える頭、尋問全体の大局観を検討する頭、証人の証言を聞いて、矛盾や変遷が無いかを検討する頭、その3つが同時に動くので、胃にまで血が回らないのである。

尋問前のプレッシャーいっぱいの私に、主任は

だ~んくんでもそんなデリケートなところあるんや~~

と茶化しだす。ほっとけや。

ただ、そんなプレッシャーは、法廷で立ち上がったときには、どこかに消えた。

どちらかと言えば、

貴様ら、この尋問を傍聴できることに感謝しな!

的な感じである。弁護士とは、そういう生き物なのである。

ただ、その前の、主任の尋問が文字通り伝説の尋問だったので、主任に感謝している者が多かったのではあるが。。

攻撃目標もはっきりしている。

私は、彼にWinnyの提供が幇助に該当すると判断した理由を聞いてみた。

「検討されましたか?」

「検討と言いますか、その結果になったんだと思います。」

「普通は、ちゃんと要件を検討してから捜査されることが多いと思うんですけれども」

「あぁ。そうですか。申し訳ありません。私は違いますけど。」

おかしい。主任にもかかわらず、真面目に答えようとしない。

こいつら、明らかに、ろくな検討なしに逮捕している。どういうことだ。

つぎに、著作権侵害かを判断した報告書についても聞いてみた。

「182個のファイルが、ニュースやCMなど、著作物以外のものであったと言う記載がありますね。これは誰の判断ですか」

「これは私の判断ですが誤ったものですね。ニュースやCMも著作物だと思います」

「大学、法学部ですよね。著作権法の勉強はされましたか。」

「覚えてないですね。」

「これは盗撮と書かれますね。内容はどういうものでしたか」

「おぼえてませんね」

「盗撮というのは、基本的に単純に何かを写すばっかりですね」

「そうなんですかね」

「盗撮という名前が付いたファイルの著作物性を判断する際には、当然事物を単純に撮影したものか、これを区別しないといけないとおもうんですがあなたはその点をちゃんと区別しましたか」

「しておりません」

著作物は、創作性が無ければならない。これを確認していなかったというのは、致命傷である。

問題は、それを著作権法に詳しくない刑事裁判所が理解できるかである。私は、勝負することに決めた。

「169を聞きましょう。合法、写真、コアラと書いていますね。これは著作物ですか」

「これは著作物でないと判断していますね。」

「どうしてですか」

「なんででしょうね。わかりません。」

著作権侵害かを判断した人間が、著作物か否かの理由も分からないというのは明らかなマイナスである。

証人の回答ぶりに、危機感を感じた検察から異議が飛んでくる。

裁判所も「そこはかなり出てるので、もういいんじゃないかと思いますが」と尋問を制限しだした。でも、そこで止めるわけにはいかない。

「合法ポエム 著作物でないとしてますね 内容はポエムでしたか」

「いや、覚えていないです」

「これは?」

「覚えていないです」

質問を繰り返すと、Tは、覚えていないとしか言わないようになってしまった。矛盾を恐れているときの常套句である。そんな証言が信用出来るわけがない。

この日の尋問は、某ドラマ宜しく、決め言葉の

「以上です」

で弁護側の勝利であった。

弁護側は、裁判所が採用した証拠から、Tが著作権侵害性を判断した証拠の排除を求めた。

これに対して、裁判所は、少しの合議の後に証拠の排除を認めた。さすがに、本人が分からないとか覚えていないとか連発している証拠に証拠としての価値は無いと判断せざるを得なかったのであろう。

証拠排除を認めたときの裁判長の顔は、不機嫌さを隠そうともしない状態であった。

それをみて、私は、道のりが遠いことを再確認した。

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