あたーにーあっとろーとは?

  • Winny制作者金子勇氏
    こと博士の素顔があまりにも面白いので、弁護人である私の目から、事件を振り返ってつれづれなるままに書きつづってみる、壇弁護士の事務室のスピンアウトブログです。

« カプセルマン第2話「カプセルマンあらわれず」 | トップページ | 高裁尋問後編 »

2015年10月25日 (日)

高裁尋問前編

高裁の証人尋問は、2009年6月11日に行われた。

尋問でも、検察と弁護人はガチ勝負である。

検察側は、おなじみの京都府警のKと、今回の事件を裏で取り仕切っていた著作権団体ACCSの担当者Nを証人請求し、

弁護側は、経済学者の田中辰雄先生と、ネット企業IIJの木村和人さんを証人請求した。

そして、この4人の証人尋問の担当は全て私にした。

理由は二つあった。

1つは事務局長としての冷静な戦局判断である。

確かに、弁護団には、主任を含めスペシャルなメンバーがいる。

それでも、この局面で、勝利を最大限に追求した場合、この事件の全てを知る私が担当するのがベストと判断したのである。

もう1つは全ての責任を自分が負うべきだと思ったからである。

誰かに最後を委ねたとき、ダメだったとき、私は、その人のせいで負けたと思うかも知れない。そんなことは嫌だ。

この事件は私の事件である。負けるときもダンのせいである。

とはいえ、プレッシャーは凄かった。

夢でも尋問のシミュレーションを繰り返す日々を過ごし、当日を迎えた。

証人尋問は、Kからである。

Kの証言は正犯の関係である。

博士は、Winnyを使って著作権侵害行為をした人を幇助したということで起訴されていたのであるが、正犯とされる人を特定する際に判明したプロバイダのID・パスワー ドと、その後ガサ入れ・逮捕した際に正犯とされる者が使っていたパソコンに設定されていたID・パスワードが異なっていたのである。

とすると捕まえたのは別人の可能性があるのじゃないか?

ということになる。

そういう証拠の矛盾がある時点で、いろんな意味で大ちょんぼであるが、それだけでは終わらないのが、刑事事件のハンディキャップマッチである。

Kは、この事件の間に出世して警部になったようである。

「この資料は、正犯がWinnyで放流していたリストのファイルを京都府警がダウンロードして、それを印字したもの・・・」

「それは露骨な誘導尋問なので、控えていただけますか」

「誘導ではないと思います」

「ダウンロードしたかどうかというのは、証人の口から出ておりません。」

初っぱなから異義を巡って検察と弁護側で火花が散る。

Kは証言を続けた。

「私が発見して、部下に資料化するように命じたものです。」

「トリップをつけるために入力する文字列がありますね」

「はい。正犯が別名を名乗っていた際のうその生年月日でした」

「ところで、正犯は自分の名前でプロバイダの契約をしていましたか」

「いいえ」

「じゃあ、正犯じゃない人がWinnyを使って映画を放流したことはないんですかね」

「それは違います」

「どうしてですか」

「トリップが、正犯が別名を名乗っていたときの嘘の生年月日だからです。」

えらく大ざっぱであるがこんな感じで検察側の尋問が終わった。

次は弁護人の反対尋問である。
私は、少し大きく息を吸って、尋問を始めた。

「正犯の実行行為のダウンロードありますね。あなたは立ち会われてましたか」
「はい」

「実況見分調書を見ても、あなたのお名前は書かれていないんですけど」
「はい、おりました」
・・・おったら名前がないわけがないだろうに。ただ、今は細かいこと聞いても仕方が無い。私は続けた。

「正犯を取り調べたことありますか。」
「ありません」

「じゃあ、全部伝聞ということでいいですね」
「はい。」

「正犯ですが、同じトリップをつかった偽物が出てると供述していたことは聞いてますか」
「聞いておりません」

「検察官に対しても、偽物がでたということをおっしゃってるみたいなんです。それをあなたは聞いてますか」
「聞いてません」

「私が、生年月日の数字のみでトリップ名を作っていたので、他の者にまねされたのかもしれませんと、聞きましたか」
「聞いてません」

検察官の供述調書に書いていることので、Kが聞いてないはずがない。
どうやら、今回は、都合の悪いことは聞いてない作戦のようである。

「甲76号証に担当の警察官の調書で、私の偽物がWinny上にでてきて、いかにも私が放流しているように見せかけるものが出てきましたのでと書いているんですが、聞きましたか」
「聞いておりません。ただ、偽物がということは、自分が本物ということですよね」

Kは、すかさず、議論を吹っかけてくる。相変わらずの様である。
私は無視して続けた。

「正犯は、ポートの設定を変更したことはないとおっしゃってたのは聞きましたか」
「はい」

「報告書ですが、被疑者に対して接続したということなんですか。」
「そうです」

「必ず、BBSというのは、データを持っているノードに直接接続しに行くと?」
「必ずというわけではないんですけども、非常に高い確率で直接接続されにいく。」

「どういうときに直接で、どういうときに直接でないか、判断基準ありましたか」
「ないです。」

「では、直接つながっている根拠は」
「何度もやったということですね。」

「毎回毎回、これは直接だ、直接ではない、そういう判断はできないのでは?」
「毎回同じポートでIPアドレスも合致していました。」

「逆に言うと、IPアドレスとポートが合致しなければ、別のノードということですね」
「はい。」

「念のためにメモをしめします。これですが、別々のIPアドレスのノードから取得していますね。これは、直接つながってたわけですね」
「はい」

「直接つながるということは、別々の他のノードから取得できてはいけないということになりますね」
「はい」

「おかしいと思いませんでしたか」
「思わなかったですね。これは掲示板データを入れ替えたんだと判断しました」

「メモをしめします。これは、同時期に取得出来たということなんですか。」
「そうです」

「とすると、別のノードなんですかね」
「そうです」

「これは同時期に同時2台接続してしまったと」
「はい」

「本来であれば同じところから取得できるべきなのに、なぜか別の板があるはずのノードのほうから取得できてしまったと。」
「はい」

「Winny2BBSに中継が発生するかというのは、聞いたことありますか」
「ありません」

このあたり、技術を知らないとややこしいが、Kが直接と言っていたのが、Winnyの機能を十分理解していないだけであることが露呈したわけである。

「この報告書ですけど、IPアドレス、ポートを正確に記録しているんですか」
「はい」

「これを見てください。IPアドレス○○○○。ポート番号は××××ですね」
「はい」

「8月1日の1時の時点で割り当てられたIPアドレスは何番ですか。
「○△○○ですね」

「IPアドレスは合致していますか」
「時間帯はいつでしたか」
Kはやばいとおもったのか、こんどは、すっとぼけ出した。

「8月3日の○○○○のIPアドレスは合致しますか」
「ポート番号はどちらのほうでしたか」

「××××ですけど」
「ああ、××××であれば、合ってませんね。」
Kは、渋々認めた。
本当なら、これで致命傷なんだけど、これでも裁判所は理解出来ないだろうなぁ。。。
そんなことを思いながら私は続けた。

「もう一回、インターネット接続ログを見てください。ログインネームを見てください。このログインIDを使ったパソコンは見つかりましたか」
「見つかりました」

Kは、見てきたかのように証言した。
しかし、それはあり得ない。
その時点で、Kは、博士の家にガサに入って、ダウンロード専用Winnyで何もアップロードの失敗を繰り返していたのであるから。

「そういう証拠、報告書つくりましたか」
「はい」
「今回の法廷では、そういう証拠は一切出てないんですけど」
「検証調書があるはずですけどね」

そんな調書があったら法廷に出ていないわけがない。
今度こそ、裁判所にも、解ったであろう。
私は、反対尋問を終えた。

次は、ACCSの担当者Nである。
Nは、ACCSのまとめた「ファイル共有利用実態調査報告書」の内容を述べた。

ファイル共有利用実態調査報告書は、もともと、原審有罪の大きな根拠となったアンケート調査の結果92%が著作権侵害であったというあれである。

彼は、平成18年のアンケート調査の結果、著作権侵害が86.2%であったこととか、Winnyネットワークによる被害額が100億円であったとか、そういう独自の見解を述べた。

そして、最後に、なぜか、平成19年のクローリング調査では、著作権侵害の割合が50%以下であることを証言して主尋問を終えた。

しかし、クローリング調査とアンケート調査で著作権侵害の割合がこれだけ違うのは、92%を著作権侵害としていたアンケート調査の手法が、原判決で有罪とされた最大の根拠が、誤りであったことを自ら認めたのと変わらない。

わざわざ、なにしに来たんだこの人?

そう思った私は、尋問する事項を予定より減らした。

私は、クローリング調査では著作権侵害の割合が50%を切ること、100億の損害と言っているものも、ファイルの内容を確認したわけでは無く、損害額も小売価格を用いたものではないことを確認した。

この100億の損害という報告書は、現在販売されていない書籍についても、何ヶ月かの間で出版された書籍の平均価格を掛け合わせて、架空の損害額を作り出したものに過ぎなかったのである。

それだけ確認した私は、早々に反対尋問を終えた。

彼は、私の反対尋問がやさしかったと吹聴していたと、その後、風の噂で聞いた。

しかし、彼は自分の証言したことの意味を理解していなかったのであろう。

そうやって、前半戦を終えた。

« カプセルマン第2話「カプセルマンあらわれず」 | トップページ | 高裁尋問後編 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« カプセルマン第2話「カプセルマンあらわれず」 | トップページ | 高裁尋問後編 »

2018年5月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31