あたーにーあっとろーとは?

  • Winny制作者金子勇氏
    こと博士の素顔があまりにも面白いので、弁護人である私の目から、事件を振り返ってつれづれなるままに書きつづってみる、壇弁護士の事務室のスピンアウトブログです。

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2015年11月 2日 (月)

高裁尋問後編

高裁尋問の後半は弁護側証人である。

弁護側証人は、木村和人氏から始まった。
もちろん担当は私である。

木村氏の証言は、地裁で否定された検察官の「Winnyが専ら著作権侵害のための技術である」アピールに対して、技術の有用性を示すのが目的であった。

 

「インプレスからP2P教科書という本が出版されてますね。」
「はい。」

 

「あなたはWinnyとSkeedCastの章で本を書かれますね。」
「はい。」

 

「Winnyの技術というのは価値の無いものなんでしょうか。」
「価値のあるものです。ネットワークが稼働していたというのは大きな価値だとおもいます。

「Winnyは、P2P技術として特筆する長所はあるのですか。」
「負荷分散という意味もありますし、耐障害性が高いということも言われています。 いざ何かあったときに、エンジニアを待機させておいて、駆けつけてトラブル解決するということをしなきゃいけないんですが、Winnyのような技術を使えば、そういった運用体制等々を簡単にすることができ、その分コストがさげられます。」

 

「実稼働ネットワークというのは重要でしょうか。」
「100とかで稼働するネットワークと数万という規模で参加するネットワークはやはり全然違ってきます。実際に数巡万規模で稼働したということは、学術的にも価値のあることだと思います。」

 

「ファイル共有という観点からですが、現在行われているサービスファイル共有はありますか。」
「Youtubeやニコニコ動画があります。」

 

「これらでは、著作権侵害の可能性のあるファイルはありますか。」
「はい。」

 

「逆に有意義に使えるというのはありますか。」
「テレビ局が自分達の番組をアップロードしたり、政党が主張を動画にして皆さんに見ていただくということもあります。」

 

「Winnyがコンテンツ流通の発展に関して役割を果たしたといえることはありますか。 」
「Winnyの利用者へのアンケートの結果見逃した番組を見れるからというのが非常に多かった。当時はそういう番組を提供するビジネスはなかったが、Winnyのユーザーがそういう発言をするおとにより、ニースがあるんだという、マーケティング的な要素がそこで発掘されたんじゃないでしょうか。」

 

「Winnyというのが開発が続けば、権利者の同意を得たコンテンツというのが流通していく可能性というのはあるとおもっていましたか。」
「はい。」

YoutubeもiTunesも何も無かった逮捕直後ではできなかった尋問である。その間に、日本のビジネスが席巻されてしまったのは残念ではあるが。

私は続けた。

 

「木村さんが取締役をされておられる会社のSceedCastですが、Winnyの技術をベースにしているコンテンツ配信システムですよね。なにかよかったことはありますか。」
「完成度の高いソフトウェアをベースにしたので、非常に短期間で開発出来ました。SkeedCastでは、著作権侵害は起こりませんし、情報漏えいもおこりません。 」

 

「検察官ですが、Winnyというのは、専ら著作権侵害のための技術であるという主張をされているんですよ。妥当な主張と思いますか。」

検察「異義があります。意見を求める尋問です。」
裁判所「異義を認めます。質問を変えてください。」

 

 

検察官は、自分の主張と直接関わるとこでは、すかさず妨害に出てくる。

こちらも、その程度で引くわけにはいかない。質問方法を変えながら、証言を続ける。

 

「専ら著作権侵害のための機能というのはWinnyにあると思いますか。」
「特に思い当たりません。 」

 

「研究仲間など責任ある相手方に対してのみソフトを配布するべきという意見があると思いますが、そういう実験方法で有意義な実験はできると思いますか。」

 

「異義があります。立証趣旨から完全にズレています。 もう少し具体的に聞いてください。」
検察官の異義も執拗になってくる。

 

「仲間内の公開だけで技術的検証ができたという話を聞いたことありますか。」
「いいえ」

 

「Winnyは著作権侵害に対する防止の努力をしていないとおもいますか。」
「無視機能があったと思います。もう一つは警告機能と呼ばれているものです。」

 

「匿名というのは、違法を助長する技術なんでしょうか。」
「いえ、セキュリティ上必要な技術と認識されていると思います。」

 

最後に、私は、前半でのKの証言に係る部分について聞き始めた。

「IPアドレスというのは、一般的なユーザの場合、動的にかわることはあるんですか。」
検察「異義、この証人の立証趣旨から完全に外れた尋問になってます。時間はオーバーしています。」
裁判所「異義を認めます。」

「では、立証趣旨の追加を請求します。」
検察「全く必要性が無いとおもいます。」
裁判所「立証趣旨の拡張を棄却します。」

正直、この部分の質問は、弁護団の中に「IPアドレス」という言葉をやたら説明したがるメンバーがいたので、最後に尋問事項に追加しただけのことである。ここで尋問を制限されても特に痛手ではない。

それでも、弁護側に厳しい訴訟指揮に少し閉口して、尋問を終えた。

 

続く、検察官の反対尋問は、あっけなく終わった。

 

次は、田中先生である。
もちろん担当は私である。

「Winnyに関して何らかのご研究をされたということをお伺いしたのですが。 」
「ファイル名やファイルサイズからどのようなファイルが流れているかの実体をしらべた研究です。 その結果、市販に出回っている音楽のCDやDVDそのままのコピーのものは約3割にとどまるというのが大きな発見でした。 」

 

「このようなサンプリング調査無しに現実の利用状況は判断できるんですか。」
「できないと思います。」

 

「ACCSの平成16年ファイル共有調査のアンケートの手法は妥当ですか。」
「人は自分の記憶で答えますので、それ以外のものが抜け落ちます。」

 

私は、事前に用意したスライドを示した。

Tanaka1

1つは、ACCSのアンケート調査で、例として示されていたタイトル名である。その他はWinnyで実際に流れているファイルのファイル名を少しだけ加工したものである。

知人に試してみたこともある。記憶に残っているものと聞くと、全員が「ハウルの動く城」だけ答えたのである。では、Winnyで流通しているファイルの100%はハウルの動く城なのか?それは違う。

京都地裁の裁判官にはまったく理解出来ていなかったようであるが、ACCSの調査手法は、基本的なところで重大な過ちを犯していたのである。

私は、続けた。

「Winnyに関して著作権侵害による被害が100億円という証言がされたと思いますが、妥当と思えますか。」
「損害額に関して小売価格か平均価格をかけて計算する方法は妥当ではありません。コンテンツというのは人気がだんだん下がってくるわけです。ある一定時点になりますと、もうほとんど売れなくなります。それにも関わらず、当初の小売価格を掛けている点で過大な推定です。もう一つは、コピーがなくなったとしても、小売価格で 購入することは無い人がいます。 真の損害といえるのは、正規品の売上げが減った分です。」

 

「Winnyが著作権者に損害を与えているかどうかという研究はましたか。」
「Winnyによって正規品の売上げが減るという効果はありませんでした。むしろすこし増えることすらありました。Winnyに宣伝効果があったのだとおもいます。」

 

私はスライドを示した。

「本件のコンテンツビジネスに当たる影響についてどう思われますか。」
「著作権法は、創作者の利益と利用者の利益をバランスさせる法律だと思っています。最適な保護水準がどこかというのはいま論争中です。これは将来、様々な試行錯誤の結果、いろいろな民事上の解決がなされていくというふうに思われます。刑法でこれを罰してしまうと言うのはどちらかと言えば乱暴な方法でありまして、可能性の芽を摘むという意味ではマイナスと思います。」

Tanaka

私は尋問を終えた。

検察側の尋問は、こんどは少し執拗であった。

「先生の意見を拝見すると、集めたサンプルが120万件ということでいいですか。」
「はい。」

 

「10台のパソコンをつかって、5人の人がパソコンの画面を目視して、カウントしたとうことですか。」
「そうです」 

「それでなんで全数調査と言えるんですか」
「集めたのは基本的に全数ですので」

 

「あなたは10台のパソコンにつながった情報だけをご覧になったんですよね。その10人のノードにつながってるファイルだけがみえるんじゃないですか。それは全数と言わないと思いますけど」
「じゃあ、全数という言葉を改めても結構です。それはしかし、全数と非常に高い相関性を持っている。全数を反映した数字になっているはずです。

 

なぜか、検察官は満足げであったが、あまり、意味のある尋問になっていない。そりゃそうだ。統計の専門家に統計で議論を吹っかけても仕方ない。

検察官は、どや顔で、田中先生が事前に作成した意見書を示した。
「この文章の下の方に、市販されている音楽CDや映画DVD、写真集、ソフトウェアなどの比率は4割程度でしかない。と描いているんですが、なんで今日は3割なんですか。」

実は、3割と4割の間だったので、3割と証言していたのであるが、今度は、証人を動揺させるのに成功したようである。

「4割ということで結構です」

 

検察官はさらに尋問を続けた。

「CMなんかも4割以外のところに入れてるんですよね。」
「入れてます。」

 

「CMも著作物でしょう」
「はい。著作物であろうかとはおもいます」

検察官はとても満足げである。 

検察官は、その後何点かの証言を経て、証人尋問は終わった。

弁護側としても当初の目標は達成しているのであるが、検察としても、毎度毎度弁護側の思うようにはさせなかったぞというところであろうか。

そして、高裁の証拠調べ手続きは終わり、残るは高裁の弁論と判決だけとなった。

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