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2005/06/11

2005/06/11

ワンクリック詐欺の基礎知識第2回

長らく時間がかかってしまったが、グーグルでワンクリック詐欺で検索して
このブログを見る人がかなりいるので、前回に引き続きワンクリック詐欺の対処法を解説したいと思う。

この手の詐欺では、表示画面の下の方に規約があったりして、業者は間違いなく「読まない奴が悪い。クリックしたから料金が発生している」と言ってくる。これに対して、契約が成立していることはほぼ皆無であるのは、前回の解説のとおりである。

では、仮に契約が成立していたとすれば、被害者は手の打ちようが無いのか?
結論から言うと、「間違って、クリックしました」と答えるのが正しいのである。それはなぜか、というのが今回の解説である。
~以下は、素人向けなので、司法試験受験生はつっこみを入れないように

契約というのは、意思表示によって成立する。
意思表示というのは、①内心的効果意思、②効果意思、③表示意思、④表示行為という段階で成立するのであると言われてきた(細かい話は無しとして)。
ありふれた例で申し訳ないが八百屋を例にしよう。
① 内心的効果意思(この大根はおいしそうだ)
② 効果意思(大根1本を149円で買おう)
③ 表示意思(これ一本くださいと言ってみよう)
④ 表示行為(「これ1本ください!!」)

これをクリックする場合の契約に当てはめる。登録料などが発生する場合を例にする。
① 内心的効果意思(画像が見れるとか)
② 効果意思(3万2000円で会員となる契約を結ぼう)
③ 表示意思(契約成立に必要なボタンをクリックしよう)
④ 表示行為(クリック)

しかしながら、このようなことを考えてクリックする奴はいない。
もし、そこまで考えていればワンクリック詐欺ではなく、単なるクリックオン契約である。

このような、意思と表示との不一致は一般に錯誤と言われている。
民法は、錯誤による意思表示は、①「法律行為の要素」に錯誤がある場合、②「重過失がない」場合は無効とされている(民法95条ただし書)。

このうち①の法律行為の要素は、要するに「契約の重要部分で、錯誤でもなければ、常識的に考えて意思表示をするわけがないだろう」という場合である。(判例の文言はちょっと難解なので、省略)
ワンクリック詐欺の場合、数万円の登録料を払うというばかげた契約をする人はまずいないので、①の要件は大丈夫である。

次に②の要件では、「うっかりクリックしたのは重過失ではないのか?」という疑問があろう。
そこで、立法的な手当がなされている。それが電子消費者契約法なのである。
正式名称はややこしい

(電子消費者契約に関する民法の特例)
第三条民法第九十五条ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。(ただし当該電子消費者契約の相手方である事業者その委託を受けた者を含む 以下同じ)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。

ややこしいようであるが、要するに、
①要素の錯誤の場合で、
②契約するつもりがなかった場合や、違う内容の契約をするつもりだった場合で、
③契約確認画面が無かった場合や、契約確認画面を不要と自ら言っていない場合
は契約は無効ということである。

つまり、契約確認画面が無ければ、「間違えてクリックしました」の場合契約は無効になるということなのである。(要素の錯誤でないと適用が無いのは、要件が不明確で立法論として問題と思うのであるが。。。)

現在のワンクリック詐欺は、契約確認画面があるわけがない。
というわけで、「間違えてクリックしました」と言えば契約は無効になってしまうのである。

このように、契約の効力を否定する方法として、錯誤無効と同様に良くあげられるのが、詐欺取消と未成年者取消である。
詐欺取消(民法96条2項) 要するに騙されたから取り消すというものである。
未成年者取消し(民法4条2項) 未成年者の契約は、原則として親の承諾がない場合は取り消せるのである。

このように、詐欺・無効となった場合、契約が無かったという効果が生じるだけである、仮に、契約が成立することで何らかの利益を得ていた場合は、利益を返還しなくてはならない。
例えば、未成年者が、勝手に車を買った場合、代金を支払わなくても良いが、車は返さないということであれば不公平である。実際に得た利益は返還する義務はあるのである。

しかし、ワンクリック詐欺では、登録されたことで得た利益があるわけ無いので、一切の支払いを免れるということである。

だから、いろいろ言われても「間違えて押した」で押し通すのが正解である。

さて、ここまで解説した。
次回は、消費者契約法、特定商取引法という、消費者系弁護士の友というべき法律の解説をしてみたいと思う。ただ、相変わらずブログはまったりとするつもりなので、ながーく待っていて欲しい。

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