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2007/01/20

2007/01/20

さらにコメントをいただいたので。

あんまり続けると中央公論のネタにされておもしろくないのであるが、小倉先生からご指摘いただいたので

テーマ1 ドメイン名の登録必要性
さて、ドメイン名というのは民事執行法167条2項の権利の移転について登録等を要するものであろうか?
これについて、レジストラが登録しなければ権利が移転しないと考えて、登録を必要とすると思うのが私の立場で、否定的なのが小倉先生の立場のようである。

これについて、小倉先生からの見解は、以下の3点のようである。
①ドメイン名の「登録」がの「登録」にあたるとすると、譲渡命令や売却命令に基づき買受人が代金を納付したときは裁判所書記官が職権で移転登録手続きを取ることになる(民事執行法167条5項にて準用する82条1項1号)のですが、それも何か違うかなという感じはします(「jp」ドメインの執行の場合、登録手続きは書記官が職権でやってくれるのですか?)。
②電話加入権やゴルフ会員権などが「権利の移転について登記等を要するもの」とされていない(これらの差押えの管轄裁判所は、債務者の住所地の地方裁判所であって、NTTやゴルフ倶楽部の所在地の地方裁判所ではない。)。
③「権利の移転について登記等を要するもの」との文言を敢えて広く解する理由が裁判所にはないのではないか(債権者の住所地とも債務者の住所地とも隔離した場所を執行の管轄裁判所とすることは通常デメリットが大きいです。)と思います。特に最近話題になっている某サイトについていうと、損害賠償を命ずる判決が確定しているにもかかわらずこれに従う意思がないことが公然と表明されているわけですから、そのような者に対する強制執行の範囲をあえて抑え気味にする方向で法解釈を行う気に裁判所がなるのかなあという疑問を持ったりもします。

①について言えば、JPドメイン名紛争処理方針から考えて、書記官からJPRSに、ドメイン譲渡命令を添付して、ドメイン名移転登録嘱託書なるものを送付することになるのであろうと考えているが(実質的にその書類を作るのは申立代理人であろう)、具体的な手続は、正直なところ、やってみないとわからないところである。

JP ドメイン名紛争処理方針 
第3条 ドメイン名登録の移転および取消
JPRS は、下記のいずれかに該当する場合には、当該ドメイン名登録の移転または取消の手続を行う。
b. 適法な管轄権を有する裁判所または仲裁機関によって下された、その旨の判決または裁定の正本(事情により、写しをもってかえることができる)を、JPRS が受領したとき

②について言えば、電話加入権やゴルフ会員権は権利移転に登記等を要しないことは、ほぼ間違いない。つまり、電話加入権は、①執行による売却→②譲渡に関する証明書をつけて譲渡承認請求→③承認で対応されている。そもそも登録は不要である。
しかし、ドメイン名の登録の手続を見れば、①ドメイン名の登録申請を申し込む→②登録される→③運用する組織のネットワークやネームサーバを用意する→④登録したドメイン名に対するネームサーバを設定する→⑤運用可能。という手続のようである。登録を要しないというためには、②なしに権利を取得した者が⑤の状態になる必要がある。指定事業者がネームサーバなどを書き換えたら、登録者とは別の人間がドメインを運用することもできないことはないだろうが、それはドメイン制度の運用から考えて問題である。

③について言えば、ドメイン名の登録はまさに、権利者を公示する制度であるので広く解するまでもなく、登記等に該当するというのが私の考えである。あえて広くというからには、本来の「権利の移転に登記等を要するもの」の解釈が何かが問題になるが、私には分からない。登録地を管轄とすれば不便という意見については、債務者の住所地だからといって便利なわけではない。債務者の住所地だけがとても遠方で不便なのは良くあることで、立法論の問題である。
そして、「特に最近話題になっている某サイトについていうと、損害賠償を命ずる判決が確定しているにもかかわらずこれに従う意思がないことが公然と表明されているわけですから、そのような者に対する強制執行の範囲をあえて抑え気味にする方向で法解釈を行う気に裁判所がなるのか」については、田舎弁護士の私は、これまで、そのようなバイアスを経て判断をする裁判官とお会いしたことがない。個人の属性で登記等の有無の判断を変えることは無いであろう。あるとしたら、167条2項を選択的管轄と解するのだろうか。いずれにせよ、某サイトに対する判断という考えが先に来ると、他の多くの場合に大きな不都合を生むのでやり過ぎは禁物である。


テーマ2 ドメイン名の権利性と記載内容

次にドメインをなんらかの権利とする場合、法的にはどのように考えるべきであろうか。
この点、小倉先生は、
「JPRSの「ドメイン名とは」によれば、ドメイン名の登録者は、当該ドメイン名を所有するのではなく、一定期間使用する権利を持っているとする考え方が、一般的となっています。 」
とされている。

ただ問題は、使用権の内実が何かである。
使用権というからには使用を認めた者がいると考えるのが自然である。裁判所が、誰に使用権を付与されたのか、いかなる契約に基づくのかすら疎明を求めないとは考えにくい。仮に誰かに付与されたとするのであればどこまでさかのぼるのか?レジストラかレジストリか。もしかすればICANNまで遡らないといけないかもしれない。これまでの経験では、裁判所はちょっとややこしい執行になるとかなり説明と資料の請求を求めてくるので、大変だと推察する。

次に、差押え債権目録にはどの程度の記載が必要なのだろうか。
小倉先生は、
「差押債権目録には、差押えの対象範囲がわかる程度にその法的な性質を書けばよいので、そこは難しくないように思います。ゴルフ会員権の差押えのときだって、会員のゴルフ倶楽部に対する具体的な権利の内容を差押債権目録にぐだぐだ書いたりしないしないわけですし。 」
とも述べられている。

しかし、大阪では、(左記ゴルフ場及び付属施設の利用権並びに左記会員資格保証金としての預託金返還請求権)と明記する必要があったりして、意外に具体的な権利の内容を書かされるのである。かつて、カード代金を押さえたときは、誰とだれの契約であるのか、債権譲渡の代金又は立替払金支払請求権なのか、いつからいつまでに支払期が到来するものか等を具体的に記載しなくてはならなかった。「クレジット代金の支払請求権」程度では裁判所は絶対に認めてくれない。同様に、「一定期間ドメインを使用する権利」では認められない可能性が高い。
というわけで、もし、差押えが認められたら私に差押債権目録をいただけるとうれしい。

以上、何らかの検討の素材になれば幸いであるが、内容がマニアックなので、誰も見向きもしない可能性が高い。

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