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2007/04/05

無駄な考察

こんな訴訟が提起されたそうである。

1998年に死去した黒沢明監督のデビュー作「姿三四郎」(43年)などのDVDソフトを無断で販売したのは著作権侵害にあたるとして、東宝は2日、販売業者「コスモコンテンツ」(東京都)を相手取り、販売差し止めを求める訴えを東京地裁に起こした。…「8作品が公開された当時の旧著作権法は、映画の著作権の保護期間について「著作者の死後38年」と規定。その後、「公開後50年」(70年改正)「公開後70年」(03年改正)と変更されたが、著作者の死後38年のほうが長い場合は、同時点まで保護するという規定がある。 」とされている。

本当に旧著作権法は映画の著作権の保護期間を著作者の死語38年とされているのだろうか?実は、旧著作権法がらみのところは私も自信がない部分がある。

そこで調べて見ることにした。

とても、マニアックな話なので、一般の方には苦情を言われそうである。

そこで結論を先に言うと、記事で、東宝のお方が「著作権法の規定で黒沢作品が著作権の保護期間内なのは明らか」と言ったようであるが、実際は私が考えてもよく分からない。

まずは、前提知識であるが、平成15年改正により映画著作物の保護期間は70年になっている。

著作権法

第四節 保護期間
(映画の著作物の保護期間)
第五十四条 映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年(その著作物がその創作後七十年以内に公表されなかつたときは、その創作後七十年)を経過するまでの間、存続する。

著作権法 附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、昭和四十六年一月一日から施行する。

(著作物の保護期間についての経過措置)

第七条 この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については、当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第二章第四節の規定による期間より長いときは、なお従前の例による。

平成15年改正 附 則(平成十五年法律第八十五条)

(施行期日)
第一条 この法律は、平成十六年一月一日から施行する。

(映画の著作物の保護期間についての経過措置)
第二条 改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。 

第三条 著作権法の施行前に創作された映画の著作物であって、同法附則第七条の規定によりなお従前の例によることとされるものの著作権の存続期間は、旧著作権法(明治三十二年法律第三十九号)による著作権の存続期間の満了する日が新法第五十四条第一項の規定による期間の満了する日後の日であるときは、同項の規定にかかわらず、旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日までの間とする。

というわけで、旧著作権法が、著作権者の死亡時より38年と定めていれば、そちらの適用になるというところまでは正しいと思われる。

次に旧著作権法を見てみた。

第三条 〔保護期間-生前公表著作物〕 発行又は興行したる著作物の著作権は著作者の生存間及其の死後三十年間継続す
数人の合著作に係る著作物の著作権は最終に死亡したる者の死後三十年間継続す

第五条 〔同前-無名・変名著作物〕 無名又は変名著作物の著作権は発行又は興行のときより三十年間継続す但し其の期間内に著作者其の実名の登録を受けたるときは第三条の規定に従う

第六条 〔同前-団体著作物〕 官公衙学校社寺協会会社其の他団体に於て著作の名義を以て発行又は興行したる著作物の著作権は発行又は興行のときより三十年間継続す

第二十二条の三 〔映画の著作権〕 活動写真術又は之と類似の方法に依り製作したる著作物の著作者は文芸、学術又は美術の範囲に属する著作物の著作者として本法の保護を享有す其の保護の期間に付ては独創性を有するものに在りては第三条乃至第六条及第九条の規定を適用し之を欠くものに在りては第二十三条の規定を適用す

第五十二条 第三条乃至第五条中三十年とあるは演奏歌唱の著作権及第二十二条の七に規定する著作権を除く外当分の間三十八年とす。

第六条中三十年とあるは演奏歌唱の著作権及第二十二条の七に規定する著作権を除く外当分の間三十三年とす

というわけで、黒澤映画が、独創性がないという人はいないであろうから、生前公表物か、無名変名著作物であっても登録をしていた場合は、旧著作権法3条と52条か6条但し書きで、著作者の死語38年となりそうである。

他方で、無名、変名著作物であったり、団体名義で発行または興行した著作物であれば、発行または興行のときから38年または33年で、70年改正や2003年改正の保護期間延長の恩恵を受けなければ著作権切れになりかねない。

無名の著作権とは何かというと、著作者名が表示されていない著作物である。(「著作権法逐条講義」加戸守之著)

変名の著作物とは、雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるものが表示されている著作物とされている。変名について明確にされたのは新著作権法であるが、この解釈は旧法から変わらないであろう。

参考 新著作権法
(著作者の推定)
第十四条 著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。

そして、旧法5条但し書きとの関係で、黒沢明氏の名前で登録されている著作物があるかを調べてみた。今は便利で、文化庁の著作権の登録制度についてから登録状況検索なるものがオンラインで提供されている。

黒澤明氏は、黒沢とも表記されているので、両方を調べてみた。

黒沢明…該当無し。

黒澤明… 登録番号 登録年月日 著作物の題号 著作者の氏名

第19852号-1 平成16年7月6日 鬼  黒澤 明 
第19852号-2 平成17年7月22日 鬼  黒澤 明 

であった。

そして、問題となっている映画の公表日をしらべてみた。
姿三四郎…公開日1943年3月25日
生きる…公開日1952年10月9日

のようである。 

黒澤明氏は、実名と思われるので、「姿三四郎」に「黒澤明」という著作権者の表示がなされているかが問題となる。一応、旧法についても、侵害訴訟の関係では推定規定がある。

旧著作権法

第三十五条 〔著作者・発行者の推定〕 偽作に対し民事の訴訟を提起する場合に於ては既に発行したる著作物に於て其の著作者として氏名を掲げたる者を以て其の著作者と推定す

無名又は変名著作物に於ては其の著作物に発行者として氏名を掲げたる者を以て其の発行者と推定す

未だ発行せざる脚本、楽譜及活動写真術又は之と類似の方法に依り製作したる著作物の興行に関しては其の興行に著作者として氏名を顕わしたる者を以て其の著作者と推定す

著作者の氏名を顕わさざるときは其の興行者を以て其の著作者と推定す

第十五条第三項の規定に依り著作年月日の登録を受けたる著作物に在りては其の年月日を以て著作の年月日と推定す

第十五条第四項の規定に依り第一発行年月日の登録を受けたる著作物に在りては其の年月日を以て始めて発行したる年月日と推定す

著作者名としての表示とは、「誰々著」とか「著者誰々」というような、一般人に著作者として認識させる方法という考えがある(「著作権法逐条講義」加戸守行著)。これも、旧法の解釈でも代わりは無いであろう。

そこで、監督という表示は著作者としての表示になるのであろうか??

制作東宝という表示は、著作の表示になるのであろうか??

これは、私には答える自信はない。

もし、このあたりの記載がいずれも著作の表示に当たらないとすれば、無名の表示になり公表時から38年で保護期間が切れることになる。

何となく、映画の場合、制作者、映画プロデューサー、監督、カメラマン、演出家、美術などの共同著作物というような気がするので、監督誰々の表示は、共同著作権者の一人としての表示に該当する気がする。

すると、旧法3条では、公表時から最後の一人が死んでから38年後までが保護期間になりそうである。

この場合、会社が制作で加わっているが、これをどう考えるか悩ましい。合著作になれば、最後の死亡から38年と考えようにも法人は死なないことになるが、この場合はどうなるのだろうか?

というわけで、よく分からないのである。

最後まで、読んでいただいたことに感謝である。

追記

その後いろいろ間違いを発見したので修正。33年は単に書き忘れであるが、昭和と西暦の勘違いは我ながら痛い。

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