情報ネットワーク法学会 in新潟の感想
昨日は、新潟で情報ネットワーク法学会があった。
(山口先生の基調講演を始め、いろいろ勉強になったが、)、今回注目はパネルディスカッションである。しかし、主催者側の意図が伝わってなかったのか小倉先生!という感じであった。
学会では、みんな「Winnyの事件ってどうなってるの?」という質問をしているので、100回くらい答えたかもしれない。
聞きそびれた人のために、「現在、双方の控訴趣意書と弁護側の答弁書が提出されている状況で、期日は全く決まってない状況です。」
会場で話したことを含め、いちおう、その手の事件をやっている立場としていろいろ言いたいことがあるので、ここでまとめておこう。
① 発信者情報開示では民事上の請求権のみの規定をしているのは不備ではないか?一般的な請求の慎重さと、裁判所のチェックを受けた場合での慎重さを同一規定で網羅出来るわけがない。要件を簡略化した裁判所による迅速な開示手続を規定して欲しいものである。
② 発信者情報開示を裁判所で行う場合、本人への照会はしなくてもよいようにしてもらいたい。
照会されると証拠隠滅や、相手の予期できない行動を招く可能性があるのである。一応裁判所の判断を受けているのであるから、強度の違法性が認められる場合は何とかしてもらいたいものである。
③ メールについても発信者情報開示を認めて欲しい。
脅迫や詐欺や名誉毀損行為はメールでやられると、お巡りさん頼みになるが、お巡りさんのやる気が無い場合は何も出来ないことになる。SMTPとHTTPとの間にそれほど区別すべきものがあるとは思えない。
④ なりすましって、権利侵害が明白という要件に当てはまりにくい。
なりすましであることを明らかにする場合は、究極的には発信者の情報を開示してもらわないと困難だったりするのである。
そもそも、権利侵害の明白性というのは、すべてのケースを網羅するには向いていないので、文言として稚拙であることは否定できない。「被害者の不利益及び発信者の利益を勘案して開示が相当と認められる場合」くらいにして、その後のガイドラインや判例の集積に委ねて欲しかったところである。
⑤ 開示したときの免責の要件をちゃんと考えるべきである
誤って開示した場合は一切免責されないというのであれば、だれも開示しない。このあたり立法的に問題有りである。開示が義務づけられる場合と開示をした場合の免責を分けて考えないとプロバイダの板挟みは解消されない。開示請求権を裁判上の請求権であるかのように解釈しようとするのは本末転倒である。
⑥ これからは携帯電話に対応できない法律・技術はダメダメである。
日本は不幸にも、2ちゃんねるのインパクトが大きいので、2ちゃんねる(今回は「はてな」が参戦したが)を想定したケースが多いのである。しかし、ネット利用者は携帯電話が最大なのである。携帯電話は他人と共有することが少ないことや、いつでも、どこでも使えることなどで、利用者の特定が困難である。すでに、詐欺などは携帯電話を利用してのケースが中心である。これから携帯回線が高速化すればその傾向は進むであろう。
⑦有害情報ってひとくくりにするよりもう少しつっこんだ議論をしなければいけない時期に来ているのでは?
だいたい講演では、犯罪行為と密接に関連した行為、見たくない人の見たくない権利を侵害、パターナリスティックな制約などに集約されているが、他にも考えられるであろう(ネットワークリソースを無駄に食う場合としてスパムなど)。実務的に使えるレベルまで落とし込むにはまだなのかなという印象であった。
⑧発信者情報開示義務や削除義務をきっちりしていかないと、裁判所が安易にプロバイダを送信者と認定したり、刑事的に幇助(正犯?)にする傾向になるかもしれない。
2ちゃんねるが好例だったりする。裁判所が場当たり的な考えをして迷惑がかからないようにしないといけない。
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コメント
おはようございます、せろまるです。
なんといいますか、司法に携わる方への
「情報技術」の教育が急務ではないかと思う今日この頃です。
現場の目で見て、
「なんで、そんな解釈になるの?」
なんてのを結構見ます。
最近ではHOTな「ダウンロードの違法化」
なんてのは、その典型かと思います。
HPに掲載されてる画像なんて、
キャッシュ容量を増やしておけば、
HPを開いただけでキャッシュに保存されてますから、著作権侵害画像が掲載されているHPを開いただけで、OUTってことなんでしょうかね。。。
それとも右クリックに限定するんでしょうか?
だとしたら、「全てのHPは右クリック禁止措置を義務づける」なんてことに・・・
でも、右クリック禁止しても、ブラウザメニューから保存できますしね。。。
知ったかぶりで色々決めるのは止めて欲しいものです。
Winnyにしても、技術は中立で素晴らしいものなのに、警察の面子の為のスケープゴートにされた感じが拭えません。
金子氏を逮捕しても、相変わらず警察で漏洩起きてますし、逮捕より先に署員の人となりをなんとかした方がよいでしょうに。
投稿: せろまる | 2007/11/12 11:12
>せろまるさん
弁護士業界の情報処理への無知は恐ろしい限りです。「IPアドレス??」というような人が多数のレベルです。「俺は、メールも出来ないんだ!!」とかITへの無知を自慢するものが結構いる状況です。
他方で、情報処理の人たちの司法に対する無知・無関心ぶりも恐ろしい限りです。
情報処理学会の某お方が「法律って、曖昧に規定しておいてお巡りさんにまかせればいいんじゃない?」と言ったのはのけぞりました。
情報処理で偉い人ほど、Winny事件は金子さんの意図が問題で有罪になった。だから、自分には関係ないんだと現実逃避されているようです。
著作権業界は「俺たちの利益を害するものは許さない」ってがんばってるのに、情報処理業界はパブリックには何も言わないのですから、困ったもんです。羊の群れって呼ぶしかないかもしれません。
でも、そんなことで犠牲になるのは、そんなお偉方ではなく、日本で手足を動かしているクリエーターさんたちです。でも、本当に優秀な奴は、日本を見限りつつあります。これも情けない限りです。
でも、口だけでは、誰も何もしないので、私なりに少しずつ活動してます。ご協力いただければ幸いです。
投稿: Toshimitsu Dan | 2007/11/12 12:35
専門馬鹿と言われる方ほど一般常識に欠けている傾向が顕著ですね、一方だからこそ専門家で成功したってのもあるわけで、この辺りは壇さんのような方に啓蒙してもらうしかないでしょう。
閑話休題。
Attorney-at-law更新無いんですね、楽しみにしてますのに、シクシク
p.s.
④・・・ムニュムニュ・・・し→り
投稿: BB | 2007/11/14 23:09
あ、即反映されないんですね。
投稿は削除してくださって結構ですので、Attorney-at-law更新よろしくです。
投稿: BB | 2007/11/14 23:12
>BBさん
私が一般常識があるかと言われると、あまり自信がないですが、なんとかしたいですよね。
attorney at lawは遅れて申し訳ないです。
笑いあり、人情有りの話なのでコツコツ書いていきます。
投稿: Toshimitsu Dan | 2007/11/23 18:02