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2007/11/27

小倉弁護士のブログ経由で

著作権法改正巡る2つの対立・「思いやり」欠如が招く相互不信

という記事を見た。

小倉弁護士の指摘はさておき、本来であれば、わらかしと言っておけば良い内容なのであるが、良くある話なので、想定問答的に敢えて指摘してみたい。

ハードメーカーの集まりである社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、文化審議会の中間整理に関連する形で、「技術的にコピー制限されているデジタルコンテンツの複製は、著作権者等に重大な経済的損失を与えるとは言えず、補償の対象とする必要はない」という見解を発表した。これに怒ったコンテンツの権利者の側は今月、ほぼすべての権利者団体が名を連ねた公開質問状をJEITAに提出した。この問題は、権利者のハードメーカーに対する不信感を決定的なものとする危険性があるのみならず、コピー・テンスという合意をも反故(ほご)にしかねない。

加えて言えば、経済産業省がJEITAの“暴走”を止めなかったことも情けない。コンテンツ振興策として「JAPAN国際コンテンツフェスティバル」を開催しながら、振興とは正反対の行動をするJEITAを抑制しないならば、経産省は一体何をやりたいのか意味不明である。

これは笑った。JEITAの河野さんが、私的録音録画小委員会の委員で、同趣旨の資料を出して委員会で意見を述べているのである。もし、権利者団体が、コピーテンスを反故にするとしたら、JEITAの委員会での発言を知りながら、そして、後からひっくり返さないと約束して議論しておきながら、「国家安康」的な理由で反故にした、権利者団体の姿勢こそが問題と言わざるを得ないであろう。

デジタルとネットの普及でクリエーターは所得機会の損失という深刻な被害を受けている。

岸さんは大きな勘違いをしている。クリエーター=企業ではない。クリエーターが所得機会を損失しているのは、法人著作物と特許法に認められている報償金請求権の不存在である。

参考1 著作権法15条

1 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

参考2 特許法35条

1~2省略

3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。」

また、良く権利団体が言うことであるが、所得機会の損失という深刻な被害を受けているというからには、それがなければ、パッケージを買ったという事が成り立つ場合でなければならないが、違法視して、禁止しても、パッケージを買うという相関関係があるとは言えない。他方で、ネットの普及でクリエーターの宣伝になり所得機会の増大になっている可能性すら指摘する報告がある。実証に裏付けられた議論なのだろうか?

ついでにいうと、著作権法が保護しているのは著作物のあらゆる支配ではない。著作権者が所得を失うこと=著作権者の被害と考えられがちであるが、法が規定してない範囲で所得を得られないことは本来的には法が予定しているのである。つまり、権利の保護範囲の拡張をするかどうかの議論に、被害つまり権利侵害を理由にするのは本末転倒である。

プロとアマチュアのコンテンツは分けて考えるべきである。放送局やレコード会社などを含むプロのクリエーターは、作品から収入を得ているのであり、その収入が激減するのを放置したらどうなるだろうか。ネット上でのプロのコンテンツの流通が増えるどころか、プロの道を志す人が減り、日本の文化の水準が下がる危険性もあるのではないか。

そもそもネットが日本に取り入れられてから10年以上立つが、著作権者の収入は激減していない。JASRACの報道資料を見ると収益は増えている。議論の前提の時点で???である。

また、この発言は、プロのクリエーターと、放送局やレコード会社を混同している点も問題である。

放送局やレコード会社は、クリエーターの権利を制限し、他方で、ユーザーに対しては強い権限を有したいという板挟みの関係にある。これを著作権団体や事業者は対クリエーターとの関係では優位的な立場を規定した契約を利用し、ユーザーとの間では著作権法の強化によって対応しているのである。さらに、レコード製作者の権利や輸入権、放送事業者の権利、有線放送事業者の権利なんていう、クリエータ保護としては異質な事業者の権利まで規定しているのである。

もっとも、この点は利用者にとって窓口が一本化しやすいので悪いことばかりではない。しかし、クリエーター保護=事業者保護ではない。プロのコンテンツが王様といわれると、現行法は傀儡政権か??と突っ込みを入れたくなるところである。

ついでに言うと、プロの道を志すものがいなくなるとか文化の水準が下がると言われてもどうかとおもう。日本は著作権に対価を支払われない時代が長かったが、文化の水準は低かったであろうか?著作権法に縛られて新たな創作活動が出来ない危険はどうなるのか?

もちろん、クリエーターを甘やかせと言う気はない。クリエーターの側も、環境変化に対応した新たなビジネスモデルを追求すべきである。ただ、その実現には時間がかかるのだから、それまでの間は、関係者もプロのクリエーターに思いやりを持って接するべきではないか。プロのクリエーターも賛同できる新しいアプローチを提案するなど、色々なやり方があるはずである。

新たなビジネスモデルに時間はまったくかからない。いろいろ提案されている案件をつぶさなければ良いだけである。むしろ、なにも理解せずに、ネット即ノーという人がなんと多いかを理解してもらえれば有り難いのであるが…。

残念ながら岸さんの意見は、先入観ありきの単純な反対派批判にしか見えない。もう少し実態を踏まえたちゃんとした主張をして、著作権保護の最適点に向けた具体的ビジョンを見せていただきたいと思う。

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