観念的競合の話
高木浩光氏の今度の戦はMIAUか津田氏のようである(こういう事言うと「戦」ではないとか言われそうだが…)。
ちなみに、私はMIAUの一員ではない。ただ、元気よく頑張って欲しいと願っている一人ではある。
さて、その中でこんな記事を見つけた。
津田大介:コンピューターウイルスって、作者は明らかに被害を及ぼしているわけじゃないですか。ウイニーを使った情報漏えいウイルスを作ったりコンピューターに破壊活動を行わせるようなウイルスを作ったときに、その作者はどういう罪状でどういう対応をしてどういう署名をして起訴までいこうかと考えたときに、逮捕までいくのが結構大変で、そういうときに一番わかりやすかったのがウィニーを使ってるとどうしてもいろんなところにアップロードをしまくるという特性があるので、あれは非常に著作権侵害なりやすいツールなんですね、法律的にも。そこでウイルス作者を著作権侵害で逮捕したりするんですよ。ほんとに結構そういう例っていうのは結構あって、本来それは著作権侵害ではなくてもっと悪いことしてるよねみたいなときに、そういう著作権侵害っていうのが都合よく使われている。
という点に対して、
この件について、津田氏はようするに、「ウイルス作者もWinnyで(アニメ等の)ファイル共有をやっていたので逮捕された」という意味のことを言っている。
もう少し詳しくすると、「警察は、ウイルス作者を逮捕するにあたって、当該ウイルス作者がWinnyで(アニメ作品等の)著作物のファイル共有をしていた(他のWinny利用者らと同様の行為として)ため、それら(アニメ作品等著作物)の公衆送信権侵害(という、ウイルスとは全く無関係の事実)で逮捕したのだ」ということ。
それは全くの出鱈目だ。
この事件で罪とされたのは、著作権法113条6項(罰則は119条2項1号)の著作者人格権侵害である。
この事件の判決は次のようなものだった。
本件は,被告人がした名誉毀損(判示第1)と,著作物であるアニメーション番組の静止画情報を,自己が作成した感染者のパーソナルコンピュータのハードディスク上の情報を破壊するなどの機能を有するコンピュータウィルスに添付した上,ファイル共有ソフトである「Winny」により自動公衆送信し得るようにして,著作権(公衆送信権)を侵害するとともに,著作権者の名誉又は声望を害する方法により著作者人格権を侵害した(判示第2)という事案である。
津田氏は冒頭のインタビュー(引用部最後の段落)で、「本来的な著作権の使い方とは違うんですよね。あれってもともと創作者が経済的利益や人格的利益を守るためのものなのが、」と言っているが、この事件はまさに、「創作者の人格的利益」が毀損されたものであって、津田氏はまるっきり事実を取り違えて話していることがわかる。
高木氏の指摘もいまいち不明であるが、原田ウイルスの作者は、公衆送信権侵害では罪とされておらず、著作者人格権侵害で罪にされたということを主張しているようである(そういうことでなければ津田氏の話しが全くのデタラメとはいえないと思うがいかがであろうか)。
しかし、判決の認定事実をもって、逮捕時の被疑事実を出鱈目と糾弾する問題点はさておいても、この判決は 「自動公衆送信し得るようにして,著作権(公衆送信権)を侵害するとともに」とあるように、公衆送信権侵害も罪とされている。著作者人格権侵害でも罪にされたというのが正しい。
一つの行為が、同時に二つの犯罪に該当する場合を観念的競合と言うが、本件がそれにあたる。記事を見て、改めて判決を確認してみたが、やはり、公衆送信権侵害と著作者人格権侵害の観念的競合であった。
この程度は、まともな法律家であれば、上記の引用部分を見ただけですぐにわかる。
もっとも、高木氏は、法律については素人だし、ここは法廷ではないのである。
本当に間違えているなら訂正すれば良いだけであるし、私が高木氏の主張を読み違えた可能性もある。
ただ、イントレラントな批判をしている割には、いまいちピリッとしないなぁと感じたところである。
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