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2009/08/31

観念的競合の話

高木浩光氏の今度の戦はMIAUか津田氏のようである(こういう事言うと「戦」ではないとか言われそうだが…)。

ちなみに、私はMIAUの一員ではない。ただ、元気よく頑張って欲しいと願っている一人ではある。

さて、その中でこんな記事を見つけた。

記事

津田大介:コンピューターウイルスって、作者は明らかに被害を及ぼしているわけじゃないですか。ウイニーを使った情報漏えいウイルスを作ったりコンピューターに破壊活動を行わせるようなウイルスを作ったときに、その作者はどういう罪状でどういう対応をしてどういう署名をして起訴までいこうかと考えたときに、逮捕までいくのが結構大変で、そういうときに一番わかりやすかったのがウィニーを使ってるとどうしてもいろんなところにアップロードをしまくるという特性があるので、あれは非常に著作権侵害なりやすいツールなんですね、法律的にも。そこでウイルス作者を著作権侵害で逮捕したりするんですよ。ほんとに結構そういう例っていうのは結構あって、本来それは著作権侵害ではなくてもっと悪いことしてるよねみたいなときに、そういう著作権侵害っていうのが都合よく使われている。

という点に対して、

この件について、津田氏はようするに、「ウイルス作者もWinnyで(アニメ等の)ファイル共有をやっていたので逮捕された」という意味のことを言っている。

もう少し詳しくすると、「警察は、ウイルス作者を逮捕するにあたって、当該ウイルス作者がWinnyで(アニメ作品等の)著作物のファイル共有をしていた(他のWinny利用者らと同様の行為として)ため、それら(アニメ作品等著作物)の公衆送信権侵害(という、ウイルスとは全く無関係の事実)で逮捕したのだ」ということ。

それは全くの出鱈目だ。

この事件で罪とされたのは、著作権法113条6項(罰則は119条2項1号)の著作者人格権侵害である。

この事件の判決は次のようなものだった。

本件は,被告人がした名誉毀損(判示第1)と,著作物であるアニメーション番組の静止画情報を,自己が作成した感染者のパーソナルコンピュータのハードディスク上の情報を破壊するなどの機能を有するコンピュータウィルスに添付した上,ファイル共有ソフトである「Winny」により自動公衆送信し得るようにして,著作権(公衆送信権)を侵害するとともに,著作権者の名誉又は声望を害する方法により著作者人格権を侵害した(判示第2)という事案である。

津田氏は冒頭のインタビュー(引用部最後の段落)で、「本来的な著作権の使い方とは違うんですよね。あれってもともと創作者が経済的利益や人格的利益を守るためのものなのが、」と言っているが、この事件はまさに、「創作者の人格的利益」が毀損されたものであって、津田氏はまるっきり事実を取り違えて話していることがわかる。

高木氏の指摘もいまいち不明であるが、原田ウイルスの作者は、公衆送信権侵害では罪とされておらず、著作者人格権侵害で罪にされたということを主張しているようである(そういうことでなければ津田氏の話しが全くのデタラメとはいえないと思うがいかがであろうか)。

しかし、判決の認定事実をもって、逮捕時の被疑事実を出鱈目と糾弾する問題点はさておいても、この判決は 「自動公衆送信し得るようにして,著作権(公衆送信権)を侵害するとともに」とあるように、公衆送信権侵害も罪とされている。著作者人格権侵害でも罪にされたというのが正しい。

一つの行為が、同時に二つの犯罪に該当する場合を観念的競合と言うが、本件がそれにあたる。記事を見て、改めて判決を確認してみたが、やはり、公衆送信権侵害と著作者人格権侵害の観念的競合であった。

この程度は、まともな法律家であれば、上記の引用部分を見ただけですぐにわかる。

もっとも、高木氏は、法律については素人だし、ここは法廷ではないのである。

本当に間違えているなら訂正すれば良いだけであるし、私が高木氏の主張を読み違えた可能性もある。

ただ、イントレラントな批判をしている割には、いまいちピリッとしないなぁと感じたところである。

追記

高木氏と同名の人がhatenaでコメントしていた。

HiromitsuTakagi そんなことは解っていてちゃんと「公衆送信権侵害でない」とは書かないようにしてある。判決引用時の強調部を見れば明らか。津田氏が「創作者…人格的利益」を持ち出しながら事件を把握していないことを指摘したもの 2009/08/31

しかし、それであれば、公衆送信権侵害でも処罰されている事案で、「この事件で罪とされたのは、著作権法113条6項(罰則は119条2項1号)の著作者人格権侵害である。」とか、「津田氏を全く事案を取り違えて話ししている」という批判は、辻褄があってないと思うが、それを差し引いても少なくとも読者の誤解を誘発する可能性が高い。

実際にhatenaを見ても法律の素養が高いと思えないコメントが多い。DLと公衆送信の違いすら理解せずに批判している者がいるのは驚いた。そういう人もいる中での記事としてはあまり適切に思えない。

報道を見る限り、逮捕時の被疑事実は公衆送信権侵害の可能性が高い。逮捕時の被疑事実の話に対して判決時の認定事実をもって出鱈目とまで言って批判している点については、どのようにお考えかは不明である。

ちなみに、私が見て、津田氏の当該発言は、一般の人向けの発言としては、全く事実を取り違えていると批判するような内容ではない。

結局のところ、ピリっとしていないことには変わりない。

さらに追記

津田氏は冒頭のインタビュー(引用部最後の段落)で、「本来的な著作権の使い方とは違うんですよね。あれってもともと創作者が経済的利益や人格的利益を守るためのものなのが、」と言っている。

これは、津田氏は、本来ウイルスを問題にするところ便法として著作権侵害を理由に逮捕されていることから、便法として使いやすい著作権法を問題視した発言と理解できる。

これに対して、高木氏が、「この事件はまさに、「創作者の人格的利益」が毀損されたものであって、津田氏はまるっきり事実を取り違えて話していることがわかる。」と述べている。

この件は、著作権法違反で起訴されたのであるから、判決文でその点が指摘されるのは当たり前である。著作権法違反の要件を満たしてなければただの違法逮捕・起訴にすぎない。津田氏の問題意識はその先のはずである。高木氏の批判の理由は明らかではないが、本当にお巡りさんが著作権侵害や名誉毀損を取り締まる目的で逮捕したという考えで、津田氏を批判したのであれば、いわゆる別件基準説から本件基準説を批判しているようなものであり、批判は的を射ていない。

どう考えても、ピリッとしない。

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コメント

津田氏は「ウィルスとは関係ないアニメなどの公衆送信による別件逮捕が行われた」というニュアンス
高木氏は「ウィルスに含まれた著作物の公衆送信ならびに著作者人格権侵害により逮捕された」というニュアンス

どちらも別件といえば別件だが高木氏が言っているのはウィルスとは全く関係ないファイルの公衆送信により別件逮捕されたと誤った煽り方をしているのが問題だと言う事だと思いますが…読み取れないでしょうか?

投稿: nova | 2009/09/01 14:03

>novaさん

ご指摘の点ですが、そのような可能性については否定しません。ニュアンスを表現しきれないことは常にあることですから。

ただ、津田氏がウイルスとは全く無関係な逮捕とまで言っているように読めません。

本来ウイルスの配布それ自体を問題視するべき事案で、著作権侵害で逮捕したこと、また、便宜的な逮捕ができてしまう著作権法の問題を指摘したニュアンスに理解しています。

便法でも著作権法で処罰する以上、著作権法違反の要件を満たすことは当たり前で、著作権法の要件を満たしていなければただの違法逮捕です。

結局のところ、前提としても、津田氏に対して事案を取り違えているとか、出鱈目とまでいうのは、批判としてナンセンスと思うところです。

表現とは難しいものです。もう少し寛容な理解と表現をするべきではないでしょうか?

それが、私がこの記事で言いたいことです。

投稿: Toshimitsu Dan | 2009/09/01 15:25

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