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2010/12/31

自炊の森の盛り

なんか騒がしいようである。

自炊の森ってなんやねん?という人のために。

http://www.jisuinomori.com/service/

これに関してこのような記事を見つけた。
記事

ようするに、私的複製の範囲なので適法というお立場のようである。
なにやら、サービスに先立って、弁護士の先生に確認したということなので、その弁護士からお話をお聞きしてみたいと思うところであるが、ネットで公開されている情報をもとに、私なりに考察してみた。

「当店のサービスの要点は、利用者ご自身が自分の体を使って自炊(スキャン)する、という点です。著作権法で定められている私的複製の要件として、これが求められるからです。」

これはかなり誤解を与える表現である。

(私的使用のための複製)

第三十条

著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

著作権法30条は、私的使用のための複製である。誰の手を使ったか否かは要件となっていない。

ちなみに、スキャナ+記録媒体は、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器に該当するか否かが重要に見える。該当すれば、私的目的複製に該当しなくなるからである。

実は、この点は附則で立法的に解決されている。

(自動複製機器についての経過措置)

第五条の二

著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。

これで、コンビニにあるコピー機等が適法になっているのである。

次に、

「これは良くある誤解なのですが、私的複製をする為の条件としてオリジナルの本を自分で買う必要は無いのです。例えば、図書館内で設置されているコピー機を使って複製する行為も、友人から書籍を借りて複製する行為も法的に全く問題有りません。著作権法第三十条に定得られている私的複製です。」

オリジナルの本を買う必要がないというのは、そのとおりであるが、他には、誤解を大きく招く内容となっている。

図書館の場合は、私的複製だけではない。一般的には、著作権法31条の問題でもある。

(図書館等における複製)

第三十一条 国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。

一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

 

また、友人から本を借りる場合は、貸与権が問題になる。

 

(貸与権)

第二十六条の三

著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。

というわけで、貸与権が問題になる。しかし、これについても例外規定がある。

 

(営利を目的としない上演等)

第三十八条 

4 公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。

というわけで、友人への貸与であっても、多数の友人に金をとって貸していた場合は、著作権侵害になる。

「また、店内で本を来店者にアクセスさせる行為は、あくまで閲覧行為であって、これもまた著作権法上の貸与権条項には抵触しないのです。店から本を持ち出してはじめて貸与となります。」

これは、おそらく文化庁解釈をのべているのであろう。店から本を持ち出しさえしなければ貸与ではないということ自体、実務に耐えうるようなものではないが、文化庁自体、法定パブコメ違反もへっちゃらな法律が苦手なお役所なので、しかたない。

というわけで、文化庁解釈が、裁判所でひっくり返される可能性は十分ある。

また、自炊の森は漫画喫茶と違って、単に閲覧させるだけではない。店を出れば終わりというわけではないので、貸与に該当するとされる可能性はある。

第二条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

8 この法律にいう「貸与」には、いずれの名義又は方法をもつてするかを問わず、これと同様の使用の権原を取得させる行為を含むものとする。

スキャナを用いて、原本と同一のデータを取得させる行為が、これに該当するのかは、データを返してもらうわけでないし、実質貸与と言えるのか、なかなか難しいところではある。

このあたりは、裁判所の判断によるというところであろう。

それを超えても、日本にはカラオケ法理といって、①サービスの性質、②管理支配の程度、③利益の有無によっては、間接的に関与した者も直接の侵害者と同視出来るという法理がある。

この点、直接の利用者が適法なときも、カラオケ法理の適用によって事業者を違法と言えるかは、結構難しい問題である。

また、附則5条の2は、カラオケ法理の排除を予定しているのではないかという争点もあろう。

このあたりも、裁判にならないと分からないところである。

以上がいちおうの検討である。

で、こういうことを書くと、「お前はどう思うねん」と言われかねないので、野次馬の立場からいうと「店の本をスキャンさせるのは貸与権侵害、持ち込みの本をコピーするのは適法」としておく。

追記

平成23年1月20日に、最高裁が、直接の利用者が適法な場合でも、カラオケ法理を適用するという判断をしたので、自炊の森は、複製権侵害にも該当するという意見を追加する。

 

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法律コラム」カテゴリの記事

コメント

>著作権法30条は、私的使用のための複製である。誰の手を使ったか否かは要件となっていない。

あんさん
「使用する者」の手により複製することが30条の要件になってまっせ!

投稿: abc | 2010/12/31 18:03

>abcさん
30条の
「その使用する者が複製することができる。」

というのが、手を使ったか否かとお考えなんでしょうか?

これは、外部の者を介入させないという趣旨とされており、その支配下にある者に具体的に複製行為をおこなわせることは許されると考えられています。
加戸さんの逐条解説四訂新版226ページあたりが参考になると思います。

ご一読ください。

投稿: Toshimitsu Dan | 2010/12/31 18:33

>その支配下にある者に具体的に複製行為をおこなわせること

これって、要するにその者を「手足として使う」ということでっしゃろ?

投稿: abc | 2011/01/03 12:43

>abcさん

支配的地位を有するものの指示による場合を「手足として使う」と呼ぶか否かは、個人の言葉の使い方の問題だと理解しています。

いずれにせよ、abcさんがおっしゃる、「手足として使う」というのは、支配的地位でおこなう場合に対する一種の比喩であり、物理的に自分の手として、使うのではないということ、また、著作権法上は、誰が、実質的に複製行為の主体と言えるかが重要であるということは、ご理解いただけると思います。

すると、
「利用者ご自身が自分の体を使って・・・著作権法で定められている私的複製の要件として、これが求められるからです。」

という記載が、物理的な意味で自分の身体を使って複製するか否かが著作権法上の要件となっていると読め、大きく誤解を与える文言であることは、ご理解いただけると思います。

投稿: ToshimitsuDan | 2011/01/03 16:19

「自炊の森」の件の記載が、極めて不正確で、他人に誤解を与えかねないものであることには全く異議ありません。

しかし、「支配的地位を有するものの指示による場合」云々の話も、結局は、使用する者の手によって複製が行われたとみなすことができるかどうかという話ですから、

>著作権法30条は、私的使用のための複製である。誰の手を使ったか否かは要件となっていない。

という記載も、他人に対して「誰が行うかは30条の要件になっていない」という誤解を与える不正確な記載であって、「自炊の森」の件の記載と同レベルのものだと思いますよ。

投稿: abc | 2011/01/03 19:19

>abcさん
確かに、「誰が行うかは30条の要件になっていない」という記載は、実質的に行うのか物理的に行うのかよく分からないので、誤解を与える不正確な記載ですね。

但し、私は、そのような記載はしていません。

「誰の手を使ったか否かは要件となっていない。」が私の記載です。

今回改めて、読み返しましたが、「誰の手を使ったか否かは要件となっていない」は読んでそのまんまなので、一般には誤解を与えないと判断するに至りました。貴殿の指摘に従って、(但し、比喩により「手足として使う」と表現される場合を除く)という説明を入れればより親切ですが、法律の条文が比喩を用いていないことは、あまりに自明だからです。

なお、貴殿の、『あんさん「使用する者」の手により複製することが30条の要件になってまっせ!』という指摘については、誤りであることは、十分理解してもらえたようですので、私からのご説明はこのあたりにしておきます。

一度、著作権関連の書物を読んで、検討されることをオススメします。

投稿: ToshimitsuDan | 2011/01/03 21:05

「誰の手を使ったか否かは要件となっていない。」という記述が誤解を生ませるものでないと強弁するなら、それはそれで良いでしょう。
強情を張らないで、素直にミスは認めた方が弁護士として、顧客の信頼を受けられるのではないかと思いますが、余計なお世話でした。

ただ、他人に著作権関係の書物を読むことを薦める前に、日本語の読み方の勉強でもされた方が良いと思いますよ。

それでは

投稿: abc | 2011/01/04 14:54

>abcさんへ

ご意見はうけたまわりました。
残念ながら捨て台詞としても下手だとは思いますが。

投稿: Toshimitsu Dan | 2011/01/04 15:38

法的解釈云々の難しい事は判りませんが、市販されている商用コミックは勿論、今は同人誌でも巻末に記載している方が多いですよね。
「無断複写・複製・転載を禁じます」って。
でもってスキャナでコミックを読み込ませる行為は、明らかに複写です。
だって原本は店が持っていて、データ化した画像を客が持つんですから。
そして店は、著作権保有者に対して、事前の断りを入れていません。
これが「禁じます」と記載された行為以外の何なのでしょうか?

誰がやっているから違法で、誰がやっているから違法じゃない、という解釈は、裁判所にお任せしましょう。
自分はそういうの問答できるほど、頭は良くないので。

ただ、誰が悪いのかを議論の外に置けば、
著作権保有者の許可を得ず、コミックを電子化(原本を破棄しないので事実上のコピー)しているわけですから、禁止行為と明記されている「無断複写」ではないのでしょうか?

投稿: 怠惰皇 | 2011/01/08 00:38

>怠惰皇

難しいことは苦手とおっしゃるので、端的に、ご説明します。

「無断複写」か否かは、違法か否かとはイコールではありません。

つまり、著作権者が幾ら無断複製を禁止すると言っても、法律で許されている複製であれば、無断で複製しても問題になりません。

著作物は、創作側の保護だけではなく、それを使用する側の保護も必要です。

そういう訳で、著作権者が完全に自由に出来るという訳では無いというのが、著作権法の大前提です。

その調和点をどう規定するかが、立法の悩みなのです。

投稿: Toshimitsu Dan | 2011/01/10 10:29

42歳、映画館でガンダムの音声違法録音

映画館で上映中に映画の音声を無断録音したとして、長野中央署は18日、長野市の男性会社員(42)を、映画盗撮防止法と著作権法違反容疑で長野地検に書類送検した。

発表によると、会社員は昨年11月4日、長野市内の映画館で、映画「SP 野望篇」と「劇場版 機動戦士ガンダム00」の音声を計約3時間、携帯電話で録音し、映画会社2社の著作権を侵害した疑い。会社員は「趣味で自分で聞くためにやった。いけないことをしてしまった」と話しているという。

 上映中に携帯電話を手に持ち続けていた会社員を他の客が不審に思い、映画館スタッフに連絡。スタッフが会社員に声を掛けて録音が発覚した。映画会社が同署に告訴していた。

投稿: 田中 一郎 | 2011/01/22 23:46

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