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2011/02/21

海老蔵さん暴行 弁護側、過剰防衛を主張

海老蔵の事件であるが、
記事

 18日の初公判で、伊藤被告は起訴内容を認めた上で、弁護側は冒頭陳述で、酒に酔った海老蔵さんが同席していた元暴走族リーダーに対して頭突きするなどの暴行をしたため、伊藤被告は元リーダーを守ろうとした正当防衛がいきすぎてしまったものと主張した。

これを見る限り、弁護側は事実経緯に自信があって、うって出たと評価出来る。

ところで、良く耳にするが、意外に過剰防衛は知られていない。
まず、過剰防衛とはなんであろうか?

第36条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

過剰防衛であっても、正当防衛同様に防衛のためにすることが必要で、単なる攻撃行為は、過剰防衛が成立しない。結構、防衛行為の成立範囲は狭いのである。

しかも、36条2項の過剰防衛は、いわゆる任意的減免である。必ず罪が否定される正当防衛と異なり、過剰防衛が成立しても刑の減軽は裁判所の胸先三寸なのである。

では、刑の減軽ってなんだろうか?

第68条 法律上刑を減軽すべき1個又は2個以上の事由があるときは、次の例による。
1.死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は10年以上の懲役若しくは禁錮とする。
2.無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、7年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
3.有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる。
4.罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の2分の1を減ずる。
5.拘留を減軽するときは、その長期の2分の1を減ずる。

6.科料を減軽するときは、その多額の2分の1を減ずる。

一般的には、強盗致傷のような6年以上の懲役として法定刑が定められている場合は、減軽事由が無いと、6年以下の懲役には出来ない。しかも、3年以下の懲役しか執行猶予は付かない。すると、法定刑どおりであれば、強盗致傷は絶対に実刑になる。しかし、実際には強盗致傷でも執行猶予は結構認められている。

ここに、減軽の意味があるのである。

ただ、法律上の減軽事由がなければ、減軽出来ないわけではない。
第66条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。
要するに、防衛行為か否かはともかく、酌量の余地があれば、任意的減軽はあるのである。

すると、過剰防衛も任意的減軽、酌量減軽も任意的減軽ということで、あまり、過剰防衛のみにこだわる必要はないのである。

刑法では、法律上の減軽事由は何個あっても減軽は1回である。すると、法律上の減軽1回と酌量減軽1回の合計2回は減軽可能である。

これは、2回減軽と言われているが、強盗強姦罪のような7年以上の懲役の場合は、2回減軽をとれば、執行猶予の可能性が見えてくるので重要である。

傷害罪はどうであろうか?

第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

(懲役)

第12条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。

傷害罪は、1ヶ月以上15年以下の懲役である。量刑不当と言われる可能性はあるが、法律上は、減軽事由なしに1ヶ月の懲役にしてもいいのである。要するに、傷害罪では、減軽事由がなくても、量刑的には困らないのである。

  また、量刑的には、あの程度の傷害では、高くても2年以上の懲役になる可能性は低い。

というわけで、結局のところ過剰防衛に固執する必要はないのである。

それでも過剰防衛と主張するメリットは、なんだろうか。

もし、過剰防衛が認められば、確実に量刑に反映されて刑が軽くなる。しかし、報道の範囲では、過剰防衛が成立する可能性は高くない。

たとえ、過剰防衛が成立しなくても、海老蔵が先に手を出したと言うことであれば、量刑事情として大きく斟酌される。

そして、過剰防衛の主張をすれば、裁判所が真面目に事実経緯を判断する可能性が高くなる。ここが大きなねらいなのであろう。

もっとも、弁護側の主張が否定されたとき、被告は、嘘をついて反省していないとなりかねない。リスクがある。

というわけで、弁護側は打って出たと評価できるのである。

一般の人には、長く難しい話かもしれないが、弁護士は報道を見てこんなことを考えるのである。

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