勾留の行方
大阪東警察署の警部補から恫喝取調を受けた被害者が、逆に逮捕された事件である。
逸失物横領事件での捜索・差押の後に、窃盗事件での別件逮捕・差押、勾留、起訴、その後、当初の逸失物横領を強要未遂に置き換えて逮捕、勾留と続いていたが、弁護側の準抗告に対して、大阪地方裁判所は、準抗告を認めて、勾留を却下する決定をした。
前提知識であるが、勾留は必要性が無いと認められない。
刑事訴訟法第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。一 被告人が定まつた住居を有しないとき。二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
これを見ると、勾留ってけっこう要件狭いのじゃないか?と思うかも知れない。
しかし、実際は、証拠隠滅や逃亡の可能性は異常に広く認められている。
痴漢えん罪事件では、顔も覚えていない被害者を、何万人もいる地下鉄の乗降客の中から見つけ出して脅すかも知れないと裁判所が真面目に言う、ネイト・リバーもビックリな世界が、そこにはあるのである。
実際に、この事件でも勾留担当の裁判官は、証拠隠滅の可能性はもちろんのこと、妻子を捨てて逃げる可能性まで認めていた。
この決定は、その裁判官の決定を取り消して、勾留の必要性が無いと認めたものである。
勾留の必要性とは、要するに、いろんな事情を踏まえて、裁判所が、勾留が相当な場合ということであるが、実際にはほとんどの場合相当性が認められている。
今回は、準抗告によって相当性が否定されたわけであるが、その理由が凄い。
裁判所は、恫喝したお巡りさんが、逮捕すらされていないことや、付審判請求でも特別公務員暴行陵虐罪に該当すると認められたことや、窃盗事件の逮捕の時期や、捜査側がパソコンデータを消去した事などを検討して、
「本件勾留請求には、罪証隠滅及び逃亡の防止という勾留本来の目的を逸脱して、被疑者を不当に拘束しようという意思が存在している疑いがあるといわざるを得ない」
と認定したのである。
しかも、強要未遂での勾留であるにもかかわらず、検察側が強要文言とした部分について、
「被害者の生命及び身体に危害を告知したものとは認められない」
と強要の事実を根本的に否定したのである。
別件逮捕天国の日本で、これだけ明確に勾留の違法性を認定した決定を私は知らない。
裁判所から見ても、あまりに目的があれと言うことなのである。
現在、弁護側と検察側の間で、不当にも起訴されてしまった窃盗事件の方での身柄拘束を巡って、激しい戦いがおこなわれている。
国家の威信を敵に回しての被害者意見陳述妨害だが、絶対に負けたくない。
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