「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」に対する意見書
プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)のパブコメについて、日弁連から意見書が提出された。
この提言自体、総務省の強い主導で、法改正の必要性無しという結論ありきのWGグループから出されたもので、検証WGといいながら、ろくに検証もしていない酷いWGから出たものであった。
今回の日弁連の意見書は、この提言案に対して、問題点を指摘するものである。
もちろん、私も、この意見書に一部関与している。
この意見書を日弁連の意見として提出するには、多くの方々のご尽力をいただいた。この場を借りて感謝の意を述べたい。
通信の秘密という教条のために、現在多発しているインターネットの匿名を悪用した事案に泣き寝入りを強いる結論は許されない。プロ責は法律自体の出来が悪いのである。
7月7日までである。
ぜひ、意見を上げていただきたい。
「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」に対する意見書
2011年(平成23年)6月30日
日本弁護士連合会
第1 意見の趣旨
1 本年6月に総務省「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」が取りまとめた,「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」(以下「本提言(案)」という。)で採り上げられている提言事項の見直しについて本提言(案)で提言されている事項のうち,以下の点については,提言内容が不適当であると思料されるので,指摘に従って,速やかに見直しをされたい。
(1) 「情報の流通により」権利が直接侵害されてない場合についても創設的に発信者情報開示が認められてよいかについて,本提言(案)は,プロバイダ責任制限法に関する検討のみにより,一定の結論を得ることは困難であるとしているが,インターネットの匿名性を悪用した被害の実態に照らし検討が不十分というほかない。「情報の流通により」直接権利侵害がされていないような場合であっても,広く発信者情報開示の対象にして,不当請求を防止する問題は,「権利侵害」,「必要性」等の要件で限定することが可能である。
(2) 「権利侵害の明白性」について,本提言(案)では,要件の維持が必要であるとしているが,「明白」という文言はあまりにも限定的であり,紛争類型ごとに,必要な要件を明確に規定するべきである。
(3) 「開示する発信者情報の範囲」について,本提言(案)では,包括的な規定を不適当としているが,少なくとも,裁判上の請求については,裁判所が必要と認めた情報の範囲に従うべきであり,包括的な規定を設けるべきである。
(4) 「通信履歴の保存義務」について,本提言(案)では,規定を創設することを否定しているが,発信者情報開示請求が行われたときは,その結論が出るまでの間にログが抹消されることを防ぐために,開示を求める情報に関する通信履歴を一定期間保存することを請求できる規定を設けるべきである。
2 本提言(案)で触れられていない事項の早急な検討について 本提言(案)では,以下の事項について検討されていない。しかしながら,プロバイダ責任制限法に関する重要な問題であり,早急に検討されたい。
(1) 違法なメールの送信等を含め発信者情報開示請求の対象とするべきであること。
(2) 発信者情報開示の管轄を被害者の住所地とするよう,管轄の規定を設けること。
(3) 情報開示の不当拒否に対して主務大臣による措置命令を可能にするよう,規定を設けること。
第2 意見の理由
1 プロバイダ責任制限法の問題が指摘される事案
現行のプロバイダ責任制限法では,以下のような事案において,発信者情報開示が不可能または著しく遅延する問題があり,これらに対応する必要がある。
(1) インターネットで「お金を寄付する」という勧誘をうけて,有料課金されるメールで連絡をしたが,実態は有料でメールをさせるための虚偽の勧誘であった事案において,特定電気通信に該当しないという理由で開示を拒否された(特定電気通信,情報の流通)。
(2) 氏名不詳の者から,インターネット上の掲示板において,「この馬鹿」,「頭がおかしい」,「きちがい」等の文言が繰り返された,一見して明白に権利侵害が認められる書込みによって中傷を受けた事案において,被害者が任意開示を求めたところ,権利侵害の明白性の判別ができないことを理由に任意開示を拒否された(権利侵害の明白性)。
(3) 氏名不詳の者から,逮捕歴があるなどと虚偽の事実を受けて誹謗中傷された事案において,被害者が任意開示を求めたところ,登録情報が,氏名,勤務地名,勤務地連絡先であったため,省令で開示が認められている氏名の開示しかされず,同姓同名が多いため,訴訟提起を断念した(開示請求可能な情報の内容)。
(4) 氏名不詳の者から,インターネット上の掲示板において誹謗中傷を受けた者(地方在住)が,発信者情報開示仮処分の為に東京地方裁判所に2回行く費用だけでも10万円以上の費用がかかることがわかり開示請求を断念した(発信者情報開示の管轄)。
(5) 氏名不詳の者から,プロバイダ責任制限法に基づいて発信者情報開示請求をしたが,請求中に通信履歴が削除されていたため,発信者情報開示を断念した(発信者情報の保存請求権)。
(6) 被害者が,発信者情報開示の判決を得たが,プロバイダ等が開示に応じないため,発信者が特定できない(措置命令)。
2 本提言(案)で採り上げられている提言事項の見直しについて
(1) 他人の権利を直接侵害しない情報について
本提言(案)では,「プロバイダ等においては,流通している当該情報のみでは権利侵害の有無が判断できないことから,権利侵害が存在しないのに発信者情報が開示されるというリスクが高まり,その結果,発信者のプライバシーや通信の秘密,表現の自由といった重大な権利を侵害するリスクも高まる可能性があるので,これらの権利との関係で,慎重に検討する必要がある。」という理由で,当該情報のみでは権利侵害が判定できない場合の情報開示には消極的である。
しかしながら,このような見解は,前述のようなインターネットを利用した悪質な詐欺商法が横行しており,これに対して泣き寝入りを強いている現状を無視しているものであり,不当である。
発信者情報の開示請求は,インターネットを利用した悪質な行為に対して,被害者が相手方を特定する唯一の手段であり,早急にこのような違法行為に対応できるよう法改正すべきである。
まず,本提言(案)は,権利侵害が存在しないのに発信者情報が開示されるというリスクが高まるとしているが,それは「権利侵害の存在」という要件で検討することである。
そもそも,発信者情報開示請求権は,権利侵害が起こった場合,被害回復の前提として相手方を特定するために行うものである。抽象的なリスクを恐れて要件を必要以上に厳格にすることは,現在インターネットの分野で多発している権利侵害に対して泣き寝入りを強いることを意味する。本提言(案)は,被害回復の視点が希薄と言わざるを得ない。また,被害回復の前段階の手続である,発信者情報開示の時点で,被害回復のための手続以上の要件を課すことは制度趣旨にも反するものである。
次に,本提言(案)は,流通している当該情報のみで権利侵害の有無が判断できないとしているが,違法な権利侵害か否かを判断するためには,開示を請求する者が権利侵害の存在を裏付ける相応の資料を提出するよう求めれば足りるのであり,プロバイダ等の判断資料を流通している当該情報のみに限定していること自体が誤りである。開示請求者から相応の資料提出があれば,違法行為の有無は判断可能である。そして,開示請求者から提供された相応の資料により違法行為があると判断して開示した事案においては,開示したプロバイダは免責の対象となるよう立法的な手当をすることが,正しい解決方法であり,発信者情報開示請求が認められないというのは本末転倒というべきである。
さらに,本提言(案)は,「プロバイダ等が保有しているのは,あくまで自己の管理下に置かれた設備に蔵置されたデータに過ぎないことから,このような場合に,発信者情報開示請求訴訟に応訴するといっても,プロバイダ等が適切に主張立証しうるのは,上記自己の管理下にある設備に蔵置されたデータの権利侵害性に関する事項にとどまることからすると,訴訟係属した場合にはプロバイダ等においてそれ以上の適切な主張立証をなしえないという問題もある。」とするが,プロバイダ等は,発信者に連絡して事情を確認することにより反論が可能である。また,応訴のための資料が無く敗訴するという抽象的な可能性をもって,現在多発しているインターネットを用いた悪質な詐欺事案に対して,発信者情報開示が全く不可能という現状を肯定する理由にはならない。
敗訴のリスクに対する法的な手当は,プロバイダ等の免責要件の設定の問題である。
したがって,早急に,他人の権利を直接侵害しない情報についても,発信者情報開示の対象とする方向で法改正を検討すべきである。
(2) 権利侵害の明白性について
本提言(案)は,権利侵害の明白性について「被害者の被害回復の必要性と,発信者のプライバシーや表現の自由の利益との調和の観点から規定されたものである。すなわち,被害者の被害回復の必要性が認められる一方で,発信者情報開示請求により開示される情報は,発信者のプライバシーに関わる事項であるところ,プライバシーは,いったん開示されると,原状に回復させることが不可能な性質のものであり,その取扱いには慎重さが当然に求められる。また,匿名による表現の自由についても,その保障の程度はさて
おき,保障されることに疑問の余地はなく,可能な限り,萎縮効果を及ぼさないように配慮する必要がある。このような観点から『権利侵害の明白性』が要件として規定されたものである。そうすると,権利侵害が明白である場合にのみ,発信者情報の開示を認めることには必要性及び合理性があるといえ,発信者による権利侵害が明白でないのに,発信者のプライバシー等の利益が侵害されてもよいと考えることは相当ではない。」として,権利侵害の明白性を要件とし,さらに,「明白性」は「違法性阻却事由の不存在」まで含むとする。
しかしながら,本提言(案)は,プライバシー保護や表現の自由の理念を述べるだけで短絡的に権利侵害の明白性を肯定しており,「明白」というあいまいな文言が,発信者情報開示手続に与える悪影響や,具体的な主張立証責任上の問題点を無視しているものと言わざるを得ない。
現在,「明白性」という厳格かつ抽象的な文言のために,プロバイダ等が開示の要件を満たすか否かについての不安感から任意の開示をほとんど拒否しており,そのため,多くの時間と費用を費やして訴訟による開示請求をしなければならない状況である。
そもそも,発信者情報開示請求権は,違法行為を行った相手方を特定するために行うものである。相手方が特定された後の損害賠償請求等の訴訟においてさえ,権利侵害の立証の程度の加重や抗弁事由の不存在の主張などは求められていない。それにも関わらず,その相手方を特定する手続において,損害賠償請求等の要件以上の要件を求めるのは,被害救済の途を閉ざすものと言わざるを得ない。
さらに,発信者情報開示は,裁判上の請求と裁判外の請求の場合が考えられるところ,明白性の要件が,どのような紛争類型・手続において,いかなる効果を有するかを考える必要がある。
まず,裁判上の請求においては,裁判所が権利侵害か存在するか否か(むしろ,権利侵害の存否について当該発信者を被告として呼び出して審理することが相当といえる程度の権利侵害の可能性があるか。)を認定すれば足りる。その上に「明白性」という要件を課する必要はない。
本提言(案)では,裁判例について「違法性阻却事由の不存在」を含むとされていると述べているが,実際の裁判例では,著作権の場合は権利制限事由の不存在の主張立証責任は求められていないし,名誉毀損についても,違法性阻却事由の不存在の立証を求めていないものや,主観的要件については,立証責任の転換を認めないものや,立証転換を認めても立証の程度を疎明程度に軽減しているもの等様々であり,裁判例が単純に「違法性阻却事由の不存在」の主張立証責任を要するかのように述べているのは,ミスリーディングと言わざるを得ない。
そもそも,違法性阻却事由の不存在と言っても,それが,あらゆる抗弁事由を意味するのか,主要な抗弁事由に限定するのか,名誉毀損の場合の真実性の抗弁を意味するのか,もし,あらゆる抗弁事由でなく,名誉毀損等の場合だけとするのであれば,そのように限定される理由・合理性及び「明白」という文言から当該解釈が導かれる理由が問題となる。また,不存在の主張立証義務が,厳密な意味での主張立証を求めるのか,証拠の優越なのか,疎明程度で足りるのかが,裁判では重要である。しかしながら,この点の解釈について「明白」という文言はあまりに抽象的であり,訴訟に混乱をもたらしていると言わざるを得ない。
なお,民事保全法では,主な抗弁事由の不存在の疎明を求められることが多いが,これは主張立証責任の転換ではないと考えるのが通説である。このことを踏まえて,要件を再検討するべきである。
次に,裁判外の請求の場合において,発信者情報を開示するか否かはプロバイダの判断であるので,明白性の要件が機能するのは,開示又は開示拒否に対してプロバイダが賠償義務を負うか否かに関してである。
しかしながら,開示拒否については「善意・無重過失」の免責要件が定められているため,実務上は,開示請求に対して,抗弁事由の不存在について厳密な意味での立証がなされている場合でないと開示が違法となるのではないかという解釈で問題になっており,裁判所のような判断能力のないプロバイダは,この点を恐れて任意の開示を躊躇している状況である。
結局,「明白」という文言は,その範囲や立証の程度において,あまりに抽象的であり,また,健全な実務の運用において有害である。
したがって,明白性の要件を廃止し,裁判上の請求と裁判外の請求に分けて,紛争類型を検討し,実務的な考慮を踏まえて要件を見直すべきである。
(3) 開示する発信者情報の範囲
本提言(案)では,包括的な規定について,「仮に発信者の特定及び権利救済に必要な情報であり,かつ,プロバイダ等が保存している情報が開示の対象となる発信者情報であるとして包括的に規定すると,秘匿する必要が高く,かつ被害者の権利行使に必ずしも不可欠とはいえないような情報まで開示してしまう蓋然性が高まる。また,今後予想される急速な技術の進歩やサービスの多様化により,プロバイダ等が保有していて開示請求をする者の損害賠償請求等に有用と認められる情報の範囲も変動することが予想され,そ
の中には開示の対象とすることが相当であるものとそうでないものが出てくるであろうことから,包括的に規定すると,開示の対象とすることが相当でないものまでその対象となってしまうことも考えられる。このような観点から,プロバイダ責任制限法は,総務省令で発信者情報を限定列挙することとしたのであり,総務省令により柔軟に対応することが不可能であるという状況も認められないことから,開示の対象となる発信者情報について,総務省令で限定列挙することには,現在においても合理的理由がある。よって包括的に規定することは適当ではないと考えられる。」とする。
しかしながら,このような見解は,発信者の特定を可能とする情報をすべてプロバイダ等が保有しているが,開示対象となる発信者情報の要件に該当せず,また,総務省令が硬直的であるために,泣き寝入りを強いられている現状を無視するものであり妥当ではない。
そもそも,包括規定をもって直ちに,権利侵害に不可欠な情報を開示する蓋然性が高まると言うのは,短絡的に過ぎる。特に,裁判上の請求であれば,必要とする情報の範囲を裁判所が判断するのであるから,そのような懸念は皆無である。
また,急速な技術の進歩やサービスの多様化は,包括的な規定の必要性の根拠にはなっても,これを否定する根拠とはなり得ない。
さらに,現行の総務省令では,現在,提供されているサービスですら十分に対応できていない。
例えば,氏名の他,勤務地名や勤務先の住所等の情報しか登録されていない場合があるが,この場合は,氏名だけ分かっても訴訟提起不可能である。そして,本人特定に足りる情報をプロバイダが保有しているにもかかわらず,開示が不可能となる。
本意見書では,携帯電話の固有識別番号を盛り込むことを示唆しているが,これですら,プロバイダ責任制限法の施行後,数回にわたって,プロトコルが変更されており,また,プロトコルの変更が行われるのが確実である。
このような状況であるにもかかわらず,これまで一度も総務省令の見直しを行ってこなかった,総務省令が柔軟な対応が不可能であることは明らかである。
少なくとも,裁判上の請求と裁判外の請求を区別し,裁判上の請求については,包括的規定を設けるべきである。
(4) 通信履歴の保存義務
本提言(案)は,通信履歴について,「インターネット利用者は非常に多く,全インターネット利用者の通信履歴を保存しなければならないとした場合,中小零細のプロバイダ事業者はもちろんのこと,大手プロバイダ事業者においても,その利用者数(契約者数)を勘案すると,本来の業務を圧迫して,適切なサービスを提供することができなくなる可能性も否定できない。」として,通信履歴の保存義務を否定する。
しかしながら,一切の保存義務を否定することは,通信履歴が抹消されたことによる泣き寝入りを選ぶか,発信者情報抹消禁止仮処分による保全を選ぶかを余儀なくするものであり,さらに,発信者情報抹消禁止仮処分が,仮地位仮処分であり,最低2回の裁判所の出廷を必要とし,地方在住の被害者であれば,東京地方裁判所までの出頭だけでも,数日間の時間及び10万円を超える費用を強いることになっている現状に鑑みると不当である。
そもそも,全利用者の通信履歴を保存する問題と,当該開示請求に係る通信履歴を保存する問題は,全く別の問題である。
発信者情報開示の前提として,当該開示請求を受けた通信履歴を一定期間に限定して保存する義務を定めることは,プロバイダ等の負担はそれほど大きくはなく,他方で,開示請求者にとって発信者情報抹消禁止の仮処分に必要な費用と時間を軽減させることができる。
また,本提言(案)は,通信履歴について通信の秘密や情報漏えいの可能性も指摘するが,このように,権利侵害と密接に関連する特定の通信履歴についてのみ保存を義務づける立法をすることが,通信の秘密や情報漏えいの可能性として問題となる可能性は少ない。
したがって,開示請求に伴って発信者情報抹消禁止の請求権を立法化するべきである。
なお,この場合の通信履歴の保存期間であるが,現在の訴訟実務を見ると,プロバイダを特定して,プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟を提起し,判決が確定して,開示を受けるまでには,1年程度の期間がかかり,控訴審や上告審を経るケースでは,さらに長期間を要する。したがって,開示請求後1年程度は通信履歴を保存するものとし,訴訟提起された場合には判決が確定するまで,通信履歴を保存すべきである。
3 本提言(案)で触れられていない事項について
(1) 当連合会は,プロバイダ責任制限法が,消費者の被害救済の観点から「特定商取引法」の改正により,情報開示請求権を創設するべきであるとの意見をとりまとめ,2010年12月3日付け「消費者の救済のための発信者情報開示制度に関する意見書」として,消費者庁長官宛てに提出した。
これは,直接的には,特定商取引法の改正を提言するものであるが,その前提には,プロバイダ責任制限法それ自体の問題点が横たわっており,本提言(案)に先だって「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」に対しても資料として提出している。
それゆえ,同意見書においてプロバイダ責任制限法の問題として指摘した点については,本提言(案)においても当然検討されることを期待したが,検討されていない事項もある。
そこで,以下,本提言(案)において検討されていない事項のみ指摘する。
(2) 違法な電子メールの送信等を含め発信者情報開示請求の対象とするべきであること。
特定電気通信は,「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」と規定されているため,例えば,電子メールは1対1の通信なので含まれないとされる。
これは,通信の秘密を理由に限定したとされている。しかし,具体的な被害に遭い,権利救済が必要である被害者が,特定電気通信でないことを理由に,被害救済への途を閉ざされるのは妥当ではない。例えば,現在,偽出会い系による被害が多く報告されているが,これは電子メールを用いた勧誘や詐欺行為を手段としており,これに対する権利救済が認められないのは妥当ではない。
したがって,「特定電気通信」 に限られている発信者情報開示請求の対象を改正し,違法な電子メールの送信等,電気通信手段を広く発信者情報開示請求の対象とするべきである。
(3) 発信者情報開示の管轄
裁判上の請求については,請求者の住所地を管轄する裁判所も管轄裁判所とするべきである。
現行のプロバイダ責任制限法では,債務者つまりプロバイダ等の住所地を管轄する裁判所が管轄裁判所となるが,プロバイダ等は東京に集中しており,地方在住の被害者が発信者情報開示請求のために地方から東京地方裁判所に何度も出頭することは,1回あたりの出頭費用が少なくとも数万円を要することに鑑みれば,被害者に非常な負担を強いることになる。
他方で,当事者の公平性の観点から,被害者の住所地を管轄する裁判所が不相当な場合は,移送の対象とすることで公平な解決が可能である。
したがって,消費者からの開示請求に関する裁判上の請求については,請求者の住所地を管轄する裁判所を管轄裁判所に追加するべきである。
(4) 開示の不当拒否に対する措置命令
現在,匿名掲示板の管理者等の中には,発信者情報開示の判決,決定及び間接強制さえも無視する例がある。
しかも,間接強制も財産が特定できなければ執行不可能であり,結局,泣き寝入りを強いられている事案が多くある。被害者にとっては,財産を得ることが発信者情報開示の目的ではない。
そこで,判決や決定を受けているにもかかわらず,開示を拒否するようなプロバイダ等に対しては,監督官庁が適切な措置を命令する権限を与え,さらに,当該命令に対してもプロバイダ等がこれに従わない場合は罰則が認められることが必要である。
なお,プロバイダ等が,法的な義務を果たしているか否かは外形的な判断であり,これに対して措置命令を発することは,通信の秘密を侵害することにはならない。
以上
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