面白い恋人事件第1回口頭弁論期日
面白い恋人の差止めを求める訴訟の第1回口頭弁論期日が、あったようである。
北海道を代表する土産菓子「白い恋人」を製造・販売する石屋製菓(本社・札幌市西区)が、商標権を侵害されたとして、吉本興業(同・大阪市)などに菓子 「面白い恋人」の販売差し止めを求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、札幌地裁(浅井憲裁判長)であった。石屋製菓側は計1億2000万円の損害賠償を新 たに請求。吉本興業側は大阪地裁への移送を申し立てた。
札幌地裁?
私が一番違和感を感じたのはこの点である。
移送というのは、審理する裁判所を変えろという申立である。
2 地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権 で、訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる。ただし、訴訟がその簡易裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定め たものを除く。)に属する場合は、この限りでない。
16条は、管轄違いを理由とする移送の申立で、理由があれば、移送しなくてはならない。
17条は、裁量移送といわれていて、必要があるときは移送できるというものである。しかし、企業同士の訴訟で裁量移送が認められることは少ない。もし、この事件で裁量移送のみの申立をしたのであれば、証拠集めのための時間稼ぎの可能性が高い。
というわけで、本件は、管轄があるかが問題になる。
管轄については、結構知られていないことが多いので、面白い恋人事件を題材に管轄の解説をしてみたいと思う。
まず、管轄の基本は、被告の所在地である。本件では吉本興業の本店は、大阪府大阪市中央区難波千日前11−6 吉本会館にあるので、大阪となろう。
4 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
ただし、常に被告の住所地に訴訟提起しなければならないという訳ではなく、要件を満たす限り裁判所に提起することも可能である。
第五条 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
一 財産権上の訴え
義務履行地九 不法行為に関する訴え
不法行為があった地
ただ、差止め請求に関して、不法行為地の裁判所が管轄を有するかは見解が分かれている。不法行為地を管轄とする立場で、製造地だけでなく販売地を不法行為地とする見解を取れば、札幌で面白い恋人を販売していれば、札幌地裁に管轄があることになる。
しかし、私が見た限りでは、北海道にあのお菓子は売ってなかったのだが。。。。
もっとも、それだけで管轄が札幌に無いと決まったわけではない。 たとえば、損害賠償請求であれば、金銭債務となり、民法により義務履行地は、債権者の住所と定められているので、札幌地裁に管轄があることになる。
そして、一緒に請求する訴訟を提起すれば、民事訴訟法により、どれか1つの請求についてでもその裁判所に管轄があれば、他の請求については管轄がなくても管轄裁判所として選ぶことができる。
というわけで、損害賠償を一緒にするのは、弁護士の基本的なテクニックだったりする。
ただ、本件では、訴訟提起時に損害賠償は求めてなかったようである。
また、被告の1人が、北海道に所在地があった場合にも併合管轄で、札幌地裁に管轄が認められるが、本件ではそういう人がいたかは解らない。
ちなみにではあるが、商標や不正競争防止法は、特別の管轄が認められている。
第六条 特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前 二条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
一 東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所
東京地方裁判所二 大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所
大阪地方裁判所
特許権の場合は、専属管轄ということで、東京か大阪に訴訟提起しないと駄目なのだが、商標や不正競争防止法は東京や大阪にも訴訟を提起出来るし、通常の管轄裁判所にも訴訟提起出来るということになる。第六条の二 意匠権、商標権、著作者の権利(プログラムの著作物についての著作者の権利を除く。)、出版権、著作隣接権若しくは育成者権に関する訴え又は不正競争(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第一項に規定する不正競争をいう。)による営業上の利益の侵害に係る訴えについて、第四条又は第五条の規定により次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、その訴えを提起することができる。
一 前条第一項第一号に掲げる裁判所(東京地方裁判所を除く。) 東京地方裁判所二 前条第一項第二号に掲げる裁判所(大阪地方裁判所を除く。) 大阪地方裁判所
ただ、この規定は、管轄が無いのに札幌地裁に訴訟提起していいという規定ではない。
また、民事訴訟法は、応訴管轄というのがあって、被告が出頭して、弁論をした場合は、管轄があることになる。
しかし、本件では、管轄違いの抗弁を提出したようなので要件を満たさない。
ここで、カンのいい人なら、事後的にではあるが損害賠償請求を求めているので、併合請求の管轄が事後的に認められないか?と考えるかもしれない。
という条文があり、これを条文のママ読めば不可能となる。しかし、これは、事後的な事情で一度存在した管轄が消滅しないという規定であり、事後的な治癒は可能と考える立場が一般的である。
鹿児島地裁昭和31年4月2日判決でも、訴提起当時の受訴裁判所に土地管轄がない場合でも、その後に管轄原因が発生すれば管轄についての瑕疵は治癒されるとしているので、実務的には事後的な管轄の追完自体は可能である。
しかし、管轄を持ってくるためだけの別訴提起はできない。
札幌高裁昭和41年9月19日では、当事者が自己に便利な裁判所へ管轄を生じさせるためだけの目的で、本来訴訟を追行する意思のないその裁判所の管轄に属する請求を併せてしたと認められる場合は、管轄選択権の濫用として許容することができないとされている。
したがって、管轄の追完というのは、受任した弁護士にとってハイリスクである。
というわけで、この事件、札幌地裁に管轄があるかはわからない。一般に管轄違いというのは弁護士にとって大恥なことである。これだけ大きな事件で管轄違いというのはあり得ないことなので、何らかの方法で札幌地裁に管轄があるような措置を講じているとは思う。
とすると、吉本側の移送申立は何だったのか?
読めない部分が多すぎる。
というわけで、この事件。オープニングから波乱の幕開けのようである。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)