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2012/01/29

検察が弁護人の尋問事項を押収

という記事が、先日から、弁護士の中で問題になっている。

記事

山本弁護士によると、強制捜査は地裁の審理中に行われた。大阪地検は期日間整理手続きが終了した翌日の10年7月2日、大阪地裁から強盗容疑での捜索差押許可状を受け、地検の検察事務官3人が被告の独居房を捜索した。

 当時は期日間整理手続きの直後で、房内には証拠を含む裁判関係書類があり、事務官らは1審の弁護人に宛てた手紙や手紙の書き損じなどを押収。被告が拘置所に預けた荷物から、被告人質問の準備のため弁護人が差し入れた「尋問事項」と題する書面も押収した。

期日間整理手続きが終了していれば、検察官、弁護双方の主張、証拠は出そろっているはずである。いまさら何を差し押さえるのか不明であるし、そもそも拘置所に差押えするようなおいしい証拠などない。

おそらく、共犯者との手紙を差し押さえるという名目での差押えであろうが、弁護人との手紙や尋問事項を差し押さえるなど論外である。

平成12年5月には、大阪拘置所が被告人と弁護人との間の信書内容を検閲して証拠化して請求したという事案で、拘置所と検察官の措置を秘密接見交通権・弁護権を侵害するものであると認めた事案がある。今回は、信書を差し押さえただけであり、本質的には変わりない。誰がどう見ても弁護人との信書である尋問事項を差押したのであるから、弁護人の手の内をのぞき見たいがための差押えと言われても仕方ないであろう。

この問題、非難されるは、すでに地に落ちて久しい大阪検察だけではない。尋問事項ののぞき見をさせるような非常識な差押えを期日間整理手続き終了後に許可した裁判所が、この被告人を裁いたことは注目されるべきであろう。

弁護活動とは、このような超ハンディキャップマッチなのである。

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コメント

 今回の記事を読ませていただきましたが、この捜索差押は、適法であると考えるべきではないでしょうか?
 なぜなら、今回のメモ類は、被告人が自ら作成したものであるので、被告人作成の供述書として、証拠能力の存否の判定がなされるため、被告人自らに不利益な事実の承認となる記載があれば、刑事訴訟法322条1項本文の規定により、証拠とすることができるため、立証責任を有する検察官としては、捜索差押によってでも、その書面を確保すべきだと思ったとしても、その判断が不合理で違法だとは到底思えないからです。但し、本来は、公訴を提起した後なのですから、公判裁判所に証拠調べに関する処分としての捜索差押を請求すべきであったとは思いますが。なお、この捜索差押と接見交通の問題とは、別の問題であると考えます。どうしても、今回の件と同等の事態の再発を防ぎたいと思われれば、接見交通の際の出来事について被告人が作成した書面は、速やかに宅下げした上で、弁護士が保管すべきであると考えます(弁護士保管の場合は、押収拒絶権が行使できますので)。

投稿: 冨田 稔 | 2014/02/02 22:50

>富田さん。ご意見ありがとうございます。
ただ、わたしは、全く適法と考える余地はないと思っています。

伝聞例外を理由とされておられますが、伝聞例外であれば、何でも押さえて良いというわけでは無いと思います。

投稿: ToshimitsuDan | 2014/02/03 11:21

 壇先生 わたくしの発した意見への回答、誠にありがとうございます。
 本件は、おそらく最高裁判所において実体的判断が下されるべき事案だと考えますので、上告等の手続により事件が最高裁判所に係属するに至った場合には、この種の行為が許されるか否かを最高裁判所は、はっきりとさせるべきだと思います。
 ただ、「伝聞例外であれば、何でも押さえて良いというわけでは無いと思います。」との部分については、伝聞例外として証拠とすることができる可能性がある以上は、保全の措置として捜索及び差し押さえの手続きをすることができるのが原則であると、わたくしは考えております。

投稿: 冨田 稔 | 2014/02/03 21:08

>冨田さん
ご意見有り難うございます。

伝聞例外の可能性があるので差押え可能というのは、証拠法をもって捜査の適法性を考えている点で斬新過ぎるとは思います。もっとも、冨田さんも例外無く差し押さえ可能とは考えておられない様子。

私は、その例外に該当すると考えている次第です。

投稿: ToshimitsuDan | 2014/02/04 19:10

 壇先生へ 
 申し訳ありません。前回のわたくしの意見の記載が適切でなかったため、先生へ誤解を与えてしまったようです。
 わたくしは、基本は、例外なく差し押さえをすることができ、法律で押収拒絶権を有すると定められている者が所持し、又は保管する物に限り、その目的を達することができないことがあっても、やむを得ない(むしろ、立法論としては、公務上の秘密に関するものを含めて押収拒絶権を廃止した上で、押収に係る物を証拠として用いることについての期限付きの異議申立権(期限内に異議申立があったときは、その申立に係る物を証拠として用いることを認めるべきか否かについて裁判所の実質審査を認め、証拠として用いることができる旨の決定が確定するまでは、訴訟関係人は、その存在及び内容を訴訟に利用することができない。)に改めるべきであると考えています。)という立場であり、そういう趣旨で、原則であるという表現をしてしまいました。
 本件については、あくまで押収拒絶権を有さない被告人本人が所持する物についての捜索差押であり、手続きの選択が(公判裁判所へ証拠調べに関する処分として捜索差押をすべき旨の請求によるべきであったとは思います。)が正しかったかどうかはともかく、捜索差押が許されるべきではなかったとまでは言えないのではないか、むしろ現行法の下では、押収拒絶権を有する弁護士が事件に関連する物についてはすべて保管することにより、このような事態の再発を防ぐべきではないかと思っております。

投稿: 冨田 稔 | 2014/02/04 21:12

捜査の適法性が、証拠能力を否定する事情になるというのは、実務的に固まってます。また、証拠能力無き証拠収集の捜査は不適法といえましょうが、伝聞例外性が、適法性を肯定する事情になりうるというのは、おそらく、現在の実務に明るい研修者ではゼロの見解でしょう。是非世に問うてください。

弁護士が保管する直前に差押えすれば、結構いろいろ適法になりそうですね。

投稿: TooshimitsuDan | 2014/02/07 00:31

 壇先生。
「たしかに弁護士が保管する直前に差押えをすれば、結構いろいろ適法になりそうですね。」とのことですが、刑事訴訟においては、実体的真実を可能な限り、明らかにする必要がある(刑罰権は、行使すべきことが明らかな場合以外に行使されたら取り返しのつかない性質のものです。)ことから証拠物の押収等の対物強制の処分が認められていることと被告人本人には自らの秘密に属する事項に関する物についての押収拒絶権が認められていないこと(たとえ、弁護士所有に係る物であっても、被告人のみが使用するために弁護士から貸与を受けている場合には、弁護士がその所持を取り戻すまでの間は、刑事訴訟法第105条が定める「弁護士・(略)・は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するもの」の要件を満たさないため押収拒絶権を行使できないと考えます。)から、現行法の解釈としては、適法であると解釈することは、やむを得ないのではないでしょうか。
 また、条解刑事訴訟法(第四版)P.205には、「身体の拘束を受けている被告人と弁護人との間に授受される物については、接見交通権(39)との関係で、差押が許されないとする見解もあるが、一般的にそう解すべきか疑問があり、弁護士に関しては105条の押収拒絶権があることから、これに抵触する限度で差押が許容されないものと考えるべきであろうとする説(ポケット(上)239)が妥当か。」との記述があるとおり、この件に係る国家賠償請求訴訟が「藪をつついて蛇を出す」結果になる可能性があるのではないか、この訴訟において請求認容の判決を受けることは、相当の困難があるのではないか(条解刑事訴訟法は、高い評価を受けているコンメンタールであり、裁判官が条解刑事訴訟法記載のとおりの解釈をする可能性は相当程度あり得ることから、この壁を乗り越え、又は破壊することができなければ、請求が認容される可能性は絶望的なものなのではないか)と考えております。

投稿: 冨田 稔 | 2014/02/08 23:24

>冨田稔さん

ご指摘ありがとうございます。

それでもなお、私は、公判前整理手続き終了後に、弁護士との打ち合わせに関するメモの差押えは、憲法34条、刑事訴訟法39条1項に反し、適法とされる余地は無いと思っています。

それが、許されるのであれば、重大事件の打ち合わせなど出来ません。
コメンタールは、その重要性を解っていない者が書いたに過ぎないと思っています。

この点の見解の相違は永遠に平行線でしょう。


投稿: ToshimitsuDan | 2014/02/09 15:30

 壇先生へ。
 たしかに、そうかもしれませんね。先生は、被告人の防御権そして防御権を実効化させるために不可欠な弁護権への悪影響を危惧するのに対して、わたくしは、裁判所が(刑罰権の存否を明らかにするために必要と認める)事実の存否を明らかにするために行なう権限の行使への悪影響<捜査機関が行なう捜索差押には、裁判所が行なう捜索差押の裁判の執行に関する規定が大幅に準用される関係にあります。>を危惧しているため、このような見解の相違が生まれるのでしょう。
 但し、先生が公判前整理手続が終了した後に捜索差押が行なわれたことを非難されている点は、期日間整理手続の制度があることや公判前整理手続を経た事件についても裁判所の職権証拠調べに関する権限を排除していないこと等からみても、主張自体が現行の刑事訴訟制度に適合していないのではないでしょうか。
 今回の国家賠償請求訴訟事件の判決がどのような内容になるかは、現時点ではわからないですが、注目したいと思っております。

投稿: 冨田 稔 | 2014/02/13 12:05

亀レスですが…
こんなん違法としてくれないと弁護活動できませんし,最高裁もこれは違法とするんじゃないですかね?

しかし,最高裁のおじいさんは…「秘密交通権は保護されるべき」「弁護士だけでなく,被疑者・被告人が保持する弁護士との打ち合わせメモも捜査からの保護に値する」「したがって,弁護士との打ち合わせメモであることの疎明がある資料を捜索差押することは許されない。」「しかし本件では,捜索押収時にその疎明が無く,押収して中を読まないと弁護士との打ち合わせかどうかわからなかったので,捜索押収行為自体は違法とまでいえない」「意見:弁護士との打ち合わせ資料を捜査や刑事裁判で捜査機関が利用することは許されないのであって,仮に証拠請求された場合には,訴訟証拠能力は否定されるべきである」…という感じで,一般論として違法,個別具体的にはギリギリセーフ,みたいなバランスと見ました。

ともあれ,これが許されれば,被告人にとって,弁護士がトラップになっちゃいます。弁護士との打ち合わせに頼らないと真実究明できない捜査権力とか嫌すぎます。

しかし究極的に…シニカルに言えば,国民と社会が,どのような刑事司法を望むかという,政策論,制度設計の問題ですね。

投稿: taka | 2015/01/30 20:23

 壇先生へ。
 以前にコメントをさせて頂いた冨田です。
 第一審判決に関する報道を見ました。WEB上にアップされていないため判決書の具体的検討はしていませんが、私見とは異なり、本件捜索差押に関する検察官の手続きを違法、令状発付に関する裁判所の判断は適法と判断したようですね。
 しかし、本件訴訟における判断は、今後の刑事司法手続きにおいて実務上の重要な指針となると考えておりますので、国は、この判決を確定させることなく、最上級審における判断を仰ぐため適切な対応(上訴手続き)をすべきであると思っております。

投稿: 冨田 稔 | 2015/03/26 19:59

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