ガマンの判決
入れ墨の彫り師に対して医師免許がないということで起訴した事件の地裁判決が9月27日にあったようである。
大阪地裁(長瀬敬昭裁判長)は27日、「医療行為に当たる」と判断し、同法違反罪に問われた大阪府内の彫り師、増田太輝被告(29)に対し罰金15万円(求刑・罰金30万円)の有罪判決を言い渡した。
前提知識であるが、医師法には以下の条文がある。
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
第三十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。一 第十七条の規定に違反した者
すると解釈することになるが、通常は、医業とは医療を業(反復継続)として行うというように理解できそうである。
で、医療とは、患者のもつ病的な部分を改善していく治療行為と解されることが多く、この定義であれば、病的な部分とか治療とかではない入れ墨は医業には含まれないということになりそうである。
ちなみに薬事法は、
第二条 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。一 日本薬局方に収められている物二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
今回、裁判所は、医業についてかなり捻って、
そして、入れ墨は、角層のバリア機能を損ない、細菌やウイルス等が侵襲しやすい等の理由で保険衛生上危害を生ずるおそれのある行為に該当し、医学的知識が必要であるので、医業に該当するとしたのである。
そもそも、入れ墨は医師が行えば安全なのか?
入れ墨を安全に行う医学的知識ってなんやねん?
という根本的な疑問があるが、それはさておき、医業を医療行為と切り離して定義した
えらくムリクリな基準であるという印象である。
保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為というのは世の中にたくさんある。
そのうち、医師が行わなければならないかを判断することは不可能である。
すると、裁判所の基準に拠れば、やくざの指つめも女子高生のピアス穴空けも、コンタクトレンズの装着も梅雨の季節にびみょーな食事を子供に与えることも、医業に該当することになりかねない。
裁判所が、医師法のブラックジャック処罰規定を、保健衛生関係に関するけしからん行為処罰罪に読み替えたのは反対である。
ちなみに、私が、疑問なのは、身体に生理的変化をもたらす行為は、そもそも傷害罪であって、医師が医療行為として正当に行うものは正当業務行為(刑法35条)として、違法性が阻却されると考えられていることとの整合性である。
医師が医療行為として行った相当な行為は、承諾無い場合であっても違法性が阻却されるという点がポイントである。第三十五条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
ちなみに一般の場合でも、承諾ある場合は、同意傷害という、被害者の同意ある場合まで、
処罰できるのかというおじいさんのおじいさんから論じられてきたが、結論が出ていない、
超有名な論点がある。
すると
原則 傷害(×)
↓
例外1 医療行為として相当(○)→不可罰
(×)
↓
例外2 同意傷害として不可罰か(○)→不可罰
(×)
↓
傷害罪
というダイアグラムが瞬時に頭に浮かぶので、医師法違反は問題にならんと考えるところである。
本件では、警察・検察はいわゆる同意傷害の論点を避けて、上で述べたような疑問の多い医師法での起訴をしたのかもしれない。
入れ墨の隠語で「ガマン」とはよく聞く話であるが、
ただ、こういう事件で地裁判決が
へんな基準をぶったてるのは、昔からよくあることで、地裁、高裁併せて1つの審理的な部分があるので、高裁でどうなるかが注目である。
あと、弁護人の亀石弁護士のシャツのひらひら度合いが、高裁でどうなるかも注目である。
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