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2017年9月30日

2017/09/30

医業の遺業

先日、入れ墨判決については、すでにとりあげたが、医業を巡ってはいろいろあるようである。

行政解釈では、

(昭和三九年六月一八日 医事第四四号の二)
(東京地方検察庁刑事部検事あて 厚生省医務局医事課長回答)
昭和三十九年四月二十四日東地刑日記第四七八号で照会のあった標記については、これらの行為はいずれも、当該行為を行なうに当り、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある行為(医行為)であり、これらの行為を反覆継続すれば◆医業◆に該当するものと解される。

というのが美容整形や植毛を巡って通達されている。
ただ、これでも、今回のタトゥー判決の「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」よりは、対象を限定している。

また、刑罰規定の解釈に関して、行政解釈は参考でしかない。
そうでなければ、行政解釈により刑罰の対象がいかようにも変更出来るのであれば、罪刑法的主義ではないからである。

というわけで、法律の文言を裁判所がどう解するかが問題になる。
裁判例としては、

下級審は、

広島高等裁判所松江支部 昭和25年6月21日
医師法17条にいう医業とは、反覆継続の意思をもって診察・治療等の医療行為をすることをいう。

広島高等裁判所岡山支部 昭和29年4月13日
医師法一七条にいう医業とは、反覆継続して医行為をすることであり、ここでいう医行為とは、主観的には疾病治療を目的とし、客観的にはその方法が現代医学に基づくもので診断治療可能のものであることを要すると解されるから、診断類似の行為をし、なんら薬剤的効用のない焼骨粉を与えて薬代の名下に金銭を詐取した行為は、医行為に当らない。

と医業を診察・治療等の行為に限定していたのであるが
最高裁は、

最高裁判所第三小法廷 昭和30年5月24日
医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは生理上危険がある程度に達しているときは、医行為と認めるのが相当である。

という判断をして、その範囲を広めた。
この基準でも、今回の「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」よりは、ある程度の危険性を求めている点で処罰の範囲が限定されている。

もっとも、この事案は、現在は、医療類似行為と判断される可能性が高い事案であり、医業に関する先例しての価値は疑問である。
実際、下級審は、最高裁の後も治療行為等に処罰の範囲を限定している。

小松簡易裁判所 昭和34年1月31日
医行為とは、人の疾病治療を目的とし、現代医学の立場から是認されている方法により診察、治療(手術・投薬等)をすることをいい、具体的事例の疾病の発見および治癒に適合するか否かは問わない。

東京高等裁判所 昭和36年12月13日
医師法17条にいう医業とは、反覆継続の意思で人の疾病の治療を目的に診察・治療をすることをいう。

東京高等裁判所 昭和42年3月16日
医師法17条にいう医業とは、反覆継続の意思をもって医療行為をなすことをいう。

と医業を疾病の治療等を前提にした判断がなされている。
このあたりでは、裁判所もブラックジャック処罰法と考えていたのだと思われる。

最高裁も

最高裁判所第一小法廷 昭和48年9月27日
いわゆる断食療法を施行するため入寮の目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ねた行為は、それらの者の疾病の治療、予防を目的としてした診察方法の一種である問診にあたる。

と疾病の治療・予防目的の行為が医業であるような判断をしている。

その後下級審は平成に入り、

東京地方裁判所 平成2年3月9日
あざ、しみ等を目立ちにくくする目的で、注射器または針を使用して色素を注入するなどの入墨類似の美容術が、医行為に当り、社会的相当行為であるとはいえない

東京地方裁判所 平成9年9月17日
植毛治療に訪れた患者に対して、医師の資格を有しない者に問診、採血、血圧測定、植毛実施の適否診断並びに麻酔薬注射、毛髪刺入による植毛、投薬などの行為をさせたことが医師法違反に当たる

という判断をした。

その風潮がもっともトピカルなのが

最高裁判所第一小法廷 平成9年9月30日
コンタクトレンズの処方のために行われる検眼及びテスト用コンタクトレンズの着脱の各行為は、いずれも医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に当たる。

で、これを受けてか、下級審も

東京地方裁判所 平成14年10月30日
レーザー脱毛も医行為に該当すると解される

という判断をしている。

これらの判断は、まだ、美容目的も医療に含まれるという判断によるかもしれないが、それに比べて、タトゥーはこれらの事案とは性質が異なるような気がする。

昭和40年ころの判断に比べて、裁判所の判断が変わってきたのは、美容整形のありかたの変化だけではなく、警察・検察の在り方や裁判所の在り方、つまり、凶悪犯が減少するなかで新たな取締の対象を求める警察や、検察官が起訴したら、何とか有罪にしてあげようとする裁判所にもあると思われる。

私には、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」基準は検察官を勝たせるためのチートに見える。

というわけで、高裁とひらひらに注目である。

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