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2017/10/15

高速の追い越し車線で停車させたら何罪なのか

東名高速道路で、ワゴン車が大型トラックに追突され夫婦が死亡した件で、ワゴン車を無理やり停車させたとされる者が、自動車運転死傷処罰法違反などの疑いで逮捕された件で、危険運転致死だ!いや、殺人罪だ!等ネットでは、何罪が成立するかで、いろいろ言われているようである。

菊間弁護士が過失運転致死傷と言ったことで炎上したという記事を見た。

記事

園田先生が監禁致死罪が成立するとおっしゃってる記事もある。

記事

ちなみに、私は何罪が成立するかという意見はない。こういう事件は、細かい事実認定や証拠の有無で成立する罪が大きく異なるので、私のようなしがない弁護士が、証拠なしに判断することは危険すぎるからである。

というわけで、今回は、最大限に、事実認定について幅を意識して、お二人のご意見を参考に罪の成立する場合しない場合を解説してみたい。

まず、自動車の運転に関する死亡事件については、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律という平成25年に成立した法律の適否が問題になる。

そのうち、もっとも軽いのが、

(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
である。

本件では、前に回り込んで自動車を停車させたと報道されているが、これが運転上必要な注意を怠りに該当するか、また、車から降りて被害者の胸ぐらをつかむなどしたと報道されてるが、これが運転上必要な注意を怠りに該当するかが問題になる。

なんとなく、後者は、運転上の注意義務じゃなさそうなので、自動車を停車させた行為が運転上必要な注意を怠ったに該当するとしよう。その場合、死亡との因果関係が認められるかが問題になる。死亡したのは、後続車が追突したからと報道されているからである。

これは因果関係といわれている論点で、いかなる場合に因果関係を認めるかは古くから諸説あって、これだけで、お酒が何杯も飲めるネタである。

本件は、因果関係論の中でも行為後に第三者の行為が介在した事案に区分されよう。
因果関係についての裁判例としては、大阪南港事件(最高裁平成2年11月20日)がある。
これは、被害者の頭部を多数回殴打して、そのまま立ち去ったところ、被害者は生存中に何者かによってさらに殴打され、死期が早まった事案で、裁判所は因果関係を認めた。

また、交通事故事案では、最高裁平成16年10月19日がある。

これは、高速道路の追い越し車線に被害車両を停車させて、暴行を加え現場を立ち去った後、被害車両が後続車両に追突された事案であるが、裁判所は、被告人の上記過失行為及びこれと密接に関連してされた一連の暴行等に誘発されたものであったといえるとして、因果関係を認めている。

裁判例では、よっぽど奇異な事象が介在した場合でもない限り、因果関係を肯定しがちである。

本件は報道を見る限りでは、追い越し車線に車を止めさせた場合、後続車両が追突することは特段奇異な事象ではないので、一般的には因果関係が否定されることは少ないと思われる。

で、次に問題になるのが危険運転致死罪である。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
六 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

本件を報道を見る限りでは、ワゴン車に回り込んで停車させたとされているので、「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」に該当するかが問題になる。

これは、ワゴン車の通行を妨害する目的だったのか、直前といえるのか、重大な交通の危険を生じさせる速度なのかなどが問題になろう。

次に、運転と死亡との因果関係が問題になる。

先ほどの裁判例に加えて、ここで参考になるのは、大阪地方裁判所平成29年3月3日である。
これは、163キロで暴走させた結果制御不能となり対向車線に飛び出して対向車と衝突した事案で、危険運転致死を認めた。要するに、危険運転について故意があれば、事故を起こすつもりでなくてもいいのである。

この点に関して、菊間弁護士は「容疑者もその同乗者の女性も外に出ていたのだから、まさか事故が起こるとは思っていなかったと推察し」同罪の成立を否定したと報道されているようである。しかし、事故が起こると思っていたかは、同罪の成立要件ではないので、正直何の要件をおっしゃってるのか、私にはわからない。

園田先生は、「妨害運転に内在する危険性が死亡の結果という形で現実化した」ことが必要という基準を提唱されて、車を降り、ワゴン車のところまで歩いて行っていったので、本件は妨害運転に内在する危険性が具体化したものではないというお立場のようである。

ただ、その基準自体が一般的なものではないので、裁判所が採用するかという問題と、採用しても最高裁平成16年10月19日判決を見る限り、妨害運転の危険性から生じたと認定するような気がするという問題がある。

次に殺人罪の成否であるが、殺人罪は刑法である。

(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
まず、報道を見る限り、追い越し車線に停車させる行為が、死の現実的危険性を有する行為かが問題になる。これは、どれぐらい後続車両が来る危険があるか、どれだけ停止できずにぶつかる車両がいるかの程度次第であろう。

次に、故意、つまり「被害者が死ぬかもしれないが構わない」という証拠があるかが問題になる。

これは、事実認定次第で、追い越し車線に止めること自体、一般的には危険極まりないことであるが、怒りにまかせてなにも考えてなかったといえる可能性も全く否定はできない。

おまわりさんの取り調べ次第では、殺意について自白調書が出てくる可能性も出てこない可能性も否定できない。

園田先生は、自分の車から降りて、ワゴン車のところまで歩いて行ったので、自分も死ぬことを認識・認容したというのは、ありえないという意見のようである。

ただ、この点については、自白調書があれば、自分が死ぬ可能性を認識しても故意とは矛盾しないとして故意を認めるのが、私のよく知っている刑事裁判所の傾向である。

さらに、園田先生は、監禁致死罪を提唱するようである。

(逮捕及び監禁)
第二百二十条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
(逮捕等致死傷)
第二百二十一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

前に被疑者の車が停まっていて、車でその場から脱出することが当時の状況からかなり困難で、子供2人を連れて走って逃げることもできないというのが、園田先生の監禁罪成立の理由のようである。

監禁は、拘束しなくても、移動や脱出が著しく困難であればよいとされ、嫌がる人をトラックの荷台に乗せて走るだけでも成立するとされている。本件がこれに該当するかが問題で。移動した際に、どの程度執拗に回り込んでいたかとか、後続車両が衝突する可能性の程度が事実認定の前提として問題になってくると思われる。

次に、監禁する側は、監禁の故意が必要である。ワゴン車が自発的に停車したと認識していたのか、それとも進退極まって停車せざるを得なくなったと認識しているか、これも事実認定次第である。

その際には、後続車両が衝突する可能性をどの程度認識していてたかが問題になるが、その可能性を十分認識していれば認識しているほど、車がぶつかって死ぬ可能性も認識していたことになるので殺人罪の故意が認められる可能性が高まる。

すると、車が衝突して死ぬことはないと思っていたが、車が衝突する可能性を恐れて逃げることができないであろうと認識していたという事実が認定できた場合は、監禁だけの故意が認められるということになるのであろう。

というわけで、いまのところ、ネットで見る限りの犯罪の成否は解説したつもりである。
この事案、人によって前提とする事実が異なっている気がするので、人の見解を見る場合は、その点を忖度するのが重要と思う。

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