ブロッキングのブロック
最近、海賊版サイト対策で政府がブロッキングを要請するなんて話が飛び出してきて、なんだか賑やかである。
政府は漫画やアニメを作者に無断で掲載するインターネット上の「海賊版サイト」への接続を強制的に遮断するための措置に乗り出す。NTTコミュニケーションズなど国内のプロバイダー(接続業者)に利用者の閲覧を遮断するよう要請する。
なんでかNコムの名前だけ上がってるのかは大人の事情なのだろう。
これに対して、宍戸先生がお怒りの様子である。
海賊版サイト「ブロッキング要請は法的に無理筋」東大・宍戸教授、立法を議論すべきと批判
ただ、何を議論しているのかは一般の人には良く分からないとおもうので、解説してみたいと思う。
そもそも、インターネット上の通信は電気通信事業法の問題となる。
DNSへの正引きも逆引きも、送信先に関するものであるから、通信の秘密で保護されるというのが一般的な考えである。第四条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。
で通信の秘密を犯すと刑罰が待っている。
というわけで、法律上はISPはブロッキングしたくても刑罰が怖くてブロッキング出来ないという立て付けになっている。第百七十九条 電気通信事業者の取扱中に係る通信(第百六十四条第三項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。2 電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。3 前二項の未遂罪は、罰する。
これに穴が空いたのが児童ポルノである。
児童ポルノサイトを遮断するのは、緊急避難なので処罰されない場合があるという解釈が有識者から出たのである。
刑法
第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
緊急避難は、①現在危難の存在、②避難行為であること、③やむを得ずにした行為、つまり、他に取るべき方法が無かった場合であること(補充の原則)、④生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと(害の均衡)を要するとされている。
その上で、児童ポルノサイトのブロッキングは児童に与える悪影響が大きいし、他に方法がないということで緊急避難の要件を満たす場合もあろうということで、2011年4月からDNSポイズニングによるブロッキングが行われてきた。そうである。
今回のは、著作権者の人達が、児ポで空いた穴に目をつけて,海賊版対策サイト対策の場合も緊急避難の要件を満たすだろうということで、政府がブロッキングを要請するということになったようである。
この問題の背景には、出来の悪い民訴法とプロ責がある。相手を訴えたり特定する手段がないし、特定に時間がかかるというのは補充の原則に関する最大の根拠となろう。プロ責の出来が悪いこと自体は私も認めるところである。
ブロッキング報道の反響は大きい。
記事
アメリカ米映画協会関連団体の米国弁護士が、ドイツ連邦最高裁判所を引っ張り出して日本でも適法となると言っているようであるが、米国の弁護士がドイツを引っ張ってる時点で
「君の国の法理でどうなるねん?むりなんやろ?」
というツッコミしかない。
日本の有識者も大騒ぎである。実は、私の専門分野的に、これに関係している人がほとんど顔見知りなのであるが、賛成反対に別れて大騒ぎである。
いろんなところから反対の意見が出されている。
ICSA http://netsafety.or.jp/news/info/info-026.html
情報法制研究所 https://www.jilis.org/pub/20180411.pdf
EMA http://www.ema.or.jp/press/2018/0411_02.pdf
JPNIC https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2018/20180412-01.html
JAIPA https://www.jaipa.or.jp/information/docs/180412-1.pdf
あんしん協 https://www.good-net.jp/information/press-release/80
全国消費生活相談員協会 http://www.zenso.or.jp/information/news/4474.html
で、大騒ぎであるが、当の海賊版サイトは、今回の報道で認知度が上がったのがナチュラルDOS攻撃になったのか、サーバダウンしたり、ふらふらしたりのようである。
ブロッキングは立法でなければならないし、仮に立法がされても司法判断またはそれに変わる適正な手続保障がなければ、その立法は違憲と思っている。
そもそも、緊急避難という曖昧な要件で、著作権の穴を広げたら、名誉毀損で穴がさらに広がって、最後は政治的なスキャンダルをプライバシー侵害で止めれることになりかねない。
今の政府をみる限りそうならない方が不思議である。
しかも、DNSポイズニングは容易に回避可能である。
そんなもののために、政府がISPに要請という名の強制をするのは、無意味であるし、あまりに検閲に近すぎる。
そもそも、海賊版サイトの白黒は決まっていない。それを決めるのは政府ではなく裁判所である。
著作権法の権利者側の弁護士にとって、他に取るべき方法が無かったとしても、それだけで補充性の要件が充たされるわけではない。プロ責関係の弁護士にとって本当に採るべき方法が無いときに補充性を認めるべきである。
というわけで、彼らがやるべきはロビー活動でも被害4000億というデタラメな資料を作ることでも無く、ちゃんとしたスキルを有する弁護士に依頼することである。
ちょっと高いよ”
(´・∀・`)
/
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)