ダウンロード違法化の対象範囲の拡大に反対する緊急声明
ダウンロード違法化の対象範囲の拡大に反対する緊急声明
平成31年3月13日
発起人 弁護士 鐘ケ江 啓 司
弁護士 古家野 彰 平
弁護士 清水谷 洋 樹
弁護士 壇 俊 光
弁護士 野 田 隼 人
今国会提出予定の著作権法改正案(以下、「文化庁案」とする)のうち、「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」は、憲法21条が保障する国民の表現の自由、知る権利の観点から問題がある。また、国民のインターネット監視や、別件逮捕・捜索に活用される危険性もある。そのため、私たちは、文化庁案に反対する。
文化庁案は、現在は音楽と映像だけに限って違法としている著作権侵害物のダウンロードを、すべての著作物に広げる方針を示している。さらに違法にアップロードされた著作物につき、正規版が有償で提供されているものを継続的又は反復してダウンロードした場合には刑事罰の対象としている。
しかし、文化庁案は、憲法21条1項の保障する表現の自由を不当に制約するものである。 表現の自由は、個人の人格形成にとっても重要な権利であるが、とりわけ、国民が自ら政治に参加するために不可欠の前提をなす権利である。そして、知る権利、すなわち幅広く情報を収集できる自由があってこそ、個人は自由に人格を発展させ、政治的意思決定をすることができるようになる。知る権利は、表現の自由の一部として、強く保障されるものである。
インターネットは、情報流通の重要な基盤である。インターネット上の情報につき、個人の情報収集の自由を保障することは、個人の知的・文化的活動を支えるとともに、社会における経済活動、政治活動の基礎となっている。従って、インターネットから著作物を私的にダウンロードする行為も、知る権利の一つとして十分に保障される必要があり、これを過度に制約する法規は、過度の広汎性故に無効とされる。
さらに、インターネット上には、著作者に無許諾でアップロードされた情報が数多く存在しているところ、その区別は容易につけられない場合がある。文化庁案は、違法と知らずにダウンロードした場合は違法とされないとしているが、現状の刑事司法を無視したものと言わざるを得ない。未必的故意により故意は比較的容易に認められるし、少なくとも逮捕勾留が認められ自白を獲得するための取調が横行する可能性は否定できない。国民にとって、逮捕・勾留自体が大きな心理的負担である。これでは、国民のインターネット上での情報収集行為は大きく萎縮することとなる。
米国のようにフェアユース規定を有しない日本の著作権法において、広範なダウンロード禁止規定を設け、さらに、違反行為に対して刑事罰まで付すことは、国民の知る権利を過度に規制する危険性を有する。
文化庁案の、知る権利に対する制約は著しい。 捜査機関によるインターネット監視の可能性も重要な問題である。通信の効率化のためのキャッシュは文化庁案でも適法とされているが、ダウンロードとキャッシュはサーバーからは区別できない。
そのため、捜査機関はサーバーにアクセスした者のパソコンに対する捜索差押えを実施することになる。また、資料保存等のために著作物であるデータを自己のパソコンに保存している者が多いことから、当該行為の捜査を名目にした別件捜索・別件逮捕の口実とされる危険がある。
文化庁案については、本声明で指摘した問題点以外にも、その審議過程の不透明性、海賊版対策という目的に対する規制としての有効性、過度の広汎性、文化の発展の阻害の危険性等、様々な疑問点が存在している。
そのため、著作権法の研究者や弁護士のみならず、海賊版の被害を受けている著作者や出版社、同人誌業界からも次々に規制範囲を見直すように求める声明が出ているところである。
私たち弁護士有志も、現在の文化庁案の広範な規制に強く反対する。残された期間がわずかであることに鑑み、「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」については今国会の改正案から削除の上、改めて慎重かつ十分な審議をすることを要望する。
以上
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