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2020/09/23

2020/09/23

タトゥー事件最高裁決定の解説

ガマンの判決医業の遺業タトゥー裁判控訴審逆転無罪判決タトゥー事件最高裁判決と取り上げ続けている裁判であるが、

最高裁決定が裁判所のHPにアップされていた。

裁判例

というわけで、前に言っていたとおり、解説してみたい。

といっても、この事件、医行為とはなんぞや?という論点1つである。

検察官は、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と主張していて、

1審裁判所もそのように解釈して、さらに、「医師が行うのでなければ皮膚障害等を生ずるおそれがある」として彫り師を有罪とした。

この基準「おそれ」で足りるのがポイントで、刑事司法の世界では、ろくな立証がなくても裁判所が机上の空論で「おそれ」を認定してしまうのである。

ところで、「医者以外の者がやれば犯罪になる行為とは何?」という問に対して、

「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生じるおそれのある行為」と答えられても、

「じゃあ、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生じるおそれのある行為ってなんですか?」

となるであろう。実際には、保健衛生上危害を生じるおそれある行為なんて様々である。

これでは、何が処罰の対象かはわからない。

最高裁は、

医師法17条は医師の職分である医療及び保健指導を,医師ではない無資格者が行うことによって生ずる保健衛生上の危険を防止しようとする規定であると解される。したがって,医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解するのが相当である。

と判断した、医行為というのは、医師の職分との関係を必要とするということで、平たくいえば、治療や保健指導と関連性がないとダメということである。その上で単に医師の職分と関係あればいいというわけではなく、保健衛生上の危険を防止するという法の趣旨から、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生じるおそれのある行為という限定を加えている。

1審の基準と最高裁の基準は、それ自体を定義とするか限定に用いるかで全く非なるものである。

さらに最高裁は、

方法や作用が同じ行為でも,その目的,行為者と相手方との関係,当該行為が行われる際の具体的な状況等によって,医療及び保健指導に属する行為か否かや,保健衛生上危害を生ずるおそれがあるか否かが異なり得る。また,医師法17条は,医師に医行為を独占させるという方法によって保健衛生上の危険を防止しようとする規定であるから,医師が独占して行うことの可否や当否等を判断するため,当該行為の実情や社会における受け止め方等をも考慮する必要がある。

ある行為が医行為に当たるか否かについては,当該行為の方法や作用のみならず,その目的,行為者と相手方との関係,当該行為が行われる際の具体的な状況,実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で,社会通念に照らして判断するのが相当である。

と判断した。

ただ、社会通念というのがくせ者で、裁判所が社会通念といったら、有罪の為のむりくり解釈を言いだす場合もあるのであるが、今回はそうならなかった。

最高裁は、

 被告人の行為は,彫り師である被告人が相手方の依頼に基づいて行ったタトゥー施術行為であるところ,タトゥー施術行為は,装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたものであって,医療及び保健指導に属する行為とは考えられてこなかったものである。

また,タトゥー施術行為は,医学とは異質の美術等に関する知識及び技能を要する行為であって,医師免許取得過程等でこれらの知識及び技能を習得することは予定されておらず,歴史的にも,長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があり,医師が独占して行う事態は想定し難い。このような事情の下では,被告人の行為は,社会通念に照らして,医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く,医行為には当たらないというべきである。

タトゥー施術行為に伴う保健衛生上の危険については,医師に独占的に行わせること以外の方法により防止するほかない。

と認定して無罪を認定した。

要するに、入れ墨は、医師が独占するようなものではないので、医師法ではなく他の法律で規制するべきということである。

そして、この判決には草野裁判官の補足意見がついている。そこでも注目するべきは、

 タトゥーに美術的価値や一定の信条ないし情念を象徴する意義を認める者もおり,さらに,昨今では,海外のスポーツ選手等の中にタトゥーを好む者がいることなどに触発されて新たにタトゥーの施術を求める者も少なくない。このような状況を踏まえて考えると,公共的空間においてタトゥーを露出することの可否について議論を深めるべき余地はあるとしても,タトゥーの施術に対する需要そのものを否定すべき理由はない。以上の点に鑑みれば,医療関連性を要件としない解釈はタトゥー施術行為に対する需要が満たされることのない社会を強制的に作出しもって国民が享受し得る福利の最大化を妨げるものであるといわざるを得ない。タトゥー施術行為に伴う保健衛生上の危険を防止するため合理的な法規制を加えることが相当であるとするならば,新たな立法によってこれを行うべきである。

という意見である。タトゥーを個人の人格的利益と関連づけて考えているのである。

ところで、入れ墨は、身体に対する侵襲を伴うので、同意傷害の論点が存在する。この点については、草野裁判官の補足意見でも、

最後に,タトゥー施術行為は,被施術者の身体を傷つける行為であるから,施術の内容や方法等によっては傷害罪が成立し得る。本決定の意義に関して誤解が生じることを慮りこの点を付言する次第である。

同意傷害とは、同意下で、人に傷害を負わせた場合傷害罪が成立するのか?仮に傷害罪を一切否定したら、ヤクザの指つめはどうなるのか?という古くて解決されてない論点である。補足意見はそこに一石を投じたわけである。

というわけで、最高裁は、弁護人の主張に対してまさかの満額回答である。

最高裁から酷い判決をくらい続けている私からすれば、この判断は驚きしかない。

そもそも、この事件は高裁の西田裁判長が弁護人満額回答の逆転無罪を下しているのであるが、私は、その2週間前に別の事件で西田裁判長に酷い判決をくらっている。同じ裁判長でもこれである。

亀石弁護士と、私の間にある、高い壁はなんなのだろうか。

美?

そういう自虐ネタをしたくなるが、特に邪意は無い。

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