実効的な発信者情報開示請求のための法改正等を求める意見書
日本弁護士連合会から、「実効的な発信者情報開示請求のための法改正等を求める意見書」が2020年12月18日付けで総務大臣及び法務大臣宛てに提出された。
これは、発信者情報開示制度があまりにも不味い点について改善を求めるものである。
日弁連は、これまで、
消費者の救済のための発信者情報開示制度に関する意見書(2010年)
「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」に対する意見書(2013年)
と事あることに、発信者情報開示制度の問題点を指摘し、被害救済の為に実効性あるものとするよう改善を提言してきた。
もはや、私のライフワークになろうとしている。
しかし、通信の秘密を教義とする総務省はまったく応じようとしない。
テラスハウス事件を切っ掛けに、注目を受けた発信者情報開示制度の問題点であるが、
総務省は、テラスハウス事件のすこし前から「発信者情報開示の在り方に関する研究会」という審議会を開催して、先日、最終とりまとめ案を出した。
最終とりまとめでは、新しい手続きを創設するという方向が示されている。
これは、被害者があまり関与しない方向の非訟手続きのようである。
しかし、研究会の議論をみても、その新しい手続きとやらで、誰がどのような方法で発信者を特定していくのかわからない。
研究会の委員の方々は、確実に発信者を特定できる方法と情報というのが予め分かっていて、発信者が容易に特定できるとでも思っているかもしれない。しかしながら、確実に発信者を特定できる情報などない。そこをなんとかして特定の可能性を高めていくのが開示関係実務のノウハウである。私には、裁判所が、携帯電話会社が経由プロバイダであることを予想して、送信先IPアドレスや送信先URIを特定するためにdigを打ったり、ウェブのソースコードをレビューする姿は想像できない。
その他にも従前の手続きとの関係がどうなるか明確に議論されていないし、送達制度を議論しているものの送達条約非加盟国の法人に対してどうやって発令するかは議論されていない。
正直、問題点の多い手続きの改善のために、さらに問題点の多い手続きを新設しようとしているだけな気がする。例えるなら、穴だらけのほうきじゃゴミに困ると言われて、まったく機能しない大型掃除機を持ってきたが、掃除機が粗大ゴミにしかなってないというところか。
私には、総務省が各所からの批判の矛先を他に向けようとして、新しい制度を創設しようとしただけにしか見えない。
研究会では、パブリックコメントの結果を発表している。
私もパブリックコメントを出している。私が所属する弁護士有志のサイバー法研究会「電子商取引問題研究会」は九州の弁護士有志からなる「九州IT法研究会」と連名でパブリックコメントを出している。
私は、審議会で議論されている内容と実務がかなり乖離しているので、実務の観点からかなり指摘したはずである。しかし、結果発表を見る限り私の指摘の半分くらいが無視されていた。
今回は、名誉毀損が中心に議論されていたが、発信者情報開示は名誉毀損だけのものではない。
通信の秘密教団がいつまでも使えない制度にこだわれば、最後はブロッキング立法化の黒船が到来するだけである。
そのときに、教団はどうするつもりなのだろうか?
というか、前のブロッキング立法化の議論の際に、総務省が通信の秘密をあっさり売り渡そうとしたことを、私は今も怒っている。