袴田事件最高裁決定
袴田事件について、最高裁第3小法廷が、再審を認めなかった高裁の決定を取消したとの報道を目にした。
知らない人もいるかもしれないが、袴田事件とは、1966年に静岡で発生した強盗殺人放火事件で死刑判決を受けた袴田さんが冤罪を訴えて再審請求している事件である。
1981年に申立した第1次再審請求は地裁、高裁、最高裁と再審を認めなかったが、2008年に申立てた第2次再審請求は弁護人の努力の甲斐あってか2014年3月27日に死刑及び拘置の執行停止並びに裁判の再審を命じる決定がなされたのである。しかし、検察がこれに即時抗告して2018年6月11日に高裁が再審決定を取り消す驚きの決定をした。そこで、弁護側が最高裁に特別抗告を申し立てていたのである。
今回の決定は、さっそく裁判所のHPに掲載されている。
決定は、再審で何が争われていたか良く分かるものとなっている。
争点は、公判開始後の1967年に味噌製造工場の味噌タンク内で発見された血染めの「5点の衣類」に関する鑑定とみそ漬け実験の是非である。
要するに、判決で犯行着衣とされた「5点の衣類」は袴田さんが犯人である証拠か否かである。
最高裁の多数意見は、本田教授の鑑定については信用性に乏しく新証拠とはならないものの、5点の衣類が発見された当時の実況見分調書等には血痕の色について「濃赤色」、「濃赤紫色」、「赤褐色」等の記載があるにもかかわらず、本当に犯行後からみそに漬かっていたのなら発見された時点では血痕は変色しているはずであるとして、高裁にその点について審理をするために高裁に事件を差し戻すというものである。
これについては、林景一、宇賀克也の両裁判官の反対意見があるが、これは、本田鑑定の信用性を肯定するとともに、再審事由ありと認められるのであるから、差し戻しをせずに再審決定をするべきというものである。
意見の違いはあるものの、高裁決定が誤っているということについては、第三小法廷が満場一致のようである。
ちなみに、知ったようなことを言ってるが、私は、この事件には関与していない。
私は、心の病にかかっていてろくに会話出来ない状態の袴田さんにお目に掛かって心を痛めた1人である。
私の私見は、メイラード反応以前に、衣類の件だけでも、知る限りツッコミどころ満載なので、さっさと再審決定して、少しでもでも袴田さんが安らかに暮らせるようにするべきと思っている。しかし、あの高裁決定が覆されたことについては、一方的に我がことのように喜んでいるところである。
同時に、冷静にこの決定を読んだとき、高裁決定程度の狂った判断をする裁判官は日本では珍しくとも何ともないなという、暗雲垂れ込める印象ももったところである。
この件、ニュースにも多く取り上げられているようである。
ただ、高裁で再審開始決定を取り消した大島隆明裁判官も、検察官の立場からの法医学を実践されておられ私自身も痛い目にあったことのある鈴木廣一教授等にもまったく触れられていないのは少し不満である。
袴田さんが失ったものを考えたとき、この最高裁決定は決してバンザイだけではないはずである。被告人がもっとも安易に扱われる刑事司法。被告人の人生を歪めても誰も責任をとらない刑事司法。
日本のチート刑事司法の構造を理解するには、もう少し踏み込んだ理解が必要である。