記者会見のセオリー2
※この記事は、あくまでも緊急記者会見を実施する側の視点のみで書いたものです。被害者の気持ちとか、ファンの気持ちとか、タレントの立場とかを重視する方は読まないでください。
先日、ジャニーズ事務所が、性被害に関連して再度の記者会見を開いた。
記者会見の様子はYoutubeで配信されていて、これも今でも見れるようである。
前回の記者会見を総括した記事が一部の方に受けたので、今回も記者会見を総括してみたい。
1 会場の設営
相変わらず、関係者とプレスの入口を分けるとか、カメラ席を後ろに記者席を前に設置すなど、記者会見のセオリーをキッチリ守っていた。
今回は、弁護士は2人になってCCO(どっちの会社の?)の山田弁護士と木目田弁護士がタレント(社長)2人を挟む形で座っていた。
通常は、弁護士を並べることが多い(こそこそやりとりしたい)ので、何か意図があるのかなと思ったが、カメラの画角以外に特に意図は無かったようである。
2 服装ついて
今回は、前回より服の色調が揃っていた。山田弁護士だけネクタイが柄のストライプなので、特に示し合わせたのではないようである。
ただ、記者会見で服装はそれほど気にしなくて良いというのは前回述べたとおりである。
3 司会
前回は、PR会社の女性社員が司会をしていたようであるが、今回は、元NHKアナウンサーの松本和也氏が司会をしたようである。
PR会社の社員とは違って、プロの司会者だからうまく仕切れると思って採用したのかもしれない。
しかし、結婚式の司会と荒れる記者会見の司会は別物である。
松本氏の仕切りは、望月記者らの会場の不規則発言に対して、マイクなしの発言に回答を許したり、司会が自分で反論を始めたりで、記者会見が終わってからも質問が続いたり、かなりしょっぱかった。
私は、こういう荒れる会見の司会は会見に慣れた弁護士を使うのをオススメしているのであるが、それはこういうのが気になるからである。
(追記) もしかして、指名NGリストがあってやましいとこがあるから彼はムキになって反論してたのかもしれない。
ただ、それはそれでプロの仕事ではない。
4 話し方
前回、東山氏のしゃべり方が芝居がかっていたのが気になったが、今回はだいぶん普通になっていた。前回の記者会見と違って気楽に話せたのがあったのかもしれない。
ただ、意識的に声を低めにしていたようである。聞かれたくないことを答えるときには、声がより低くなる傾向が見受けられたので、自分を落ち着けるために意図的に声を低くして話していたのかもしれない。
前回、素人が話すと「えー」とかが多いことを指摘したが、今回、木目田弁護士の話を聞いて、言葉の頭に「えー」とか「あのー」が多いのが気になった人もいるかもしれない。実際はあれが普通なのである。
ちなみに、人はマイクを握るとき、緊張するとカラオケで握るときの握り方になる。それは、なぜか解らない。
みんなカラオケでこんな握り方するのか~と微笑むのが良いかもしれない。
彼らが用いていた用語であるが、最初から、喜多川・藤島とジャニー・ジュリーが人によってごちゃ混ぜになっていたので、今回はあまり練習してこなかったのかもしれない。そもそも、PR会社が仕切ると会見の形はこだわるものの発言内容にはあんまり考えないことが多いのでそういうものかもしれない。
5 話す内容
またまた、細かいところを言っても仕方ないので、特に感じたことだけに絞りたい。
藤島氏は、今回は出席せずにお手紙朗読になったようであるが、お手紙作戦は功罪両方なので、どっちが良いとは言い難いところである。
ただ、お手紙をセレクトした割りには、記載内容に、自分のお話が多いなぁという印象である。
こういう記者会見で、己の話を語っても同情は得られにくい。
次に、記者会見に同席した木目田弁護士が、東山氏の児童福祉法違反の成否について、「それは違うと思います」からしゃべり出したのが気になった。
木目田弁護士は、ヤメ検だし、テレビで言いたい放題に犯罪の成立をいう弁護士がいたので、反論したかったのかもしれない。突然、左手がバンバン動き出したのでよほど喋りたかったと思われる。
ただ、知らなかったから共犯にならない。知っていたとしても幇助ではないという旨の説明はリスキーである。
刑事罰にならなければ問題無いという印象を与えがちである。しかも、喋ってる内容にあまり説得力がない。
「私の専門家としての見解ですが刑事罰はならないと思います。ただ、彼らは道義的な問題から逃げようとはしていません。彼の発言はそういう趣旨です」とさりげなくフォローして東山氏の発言にしてあげるくらいが良かったと思う。
他には、元ジャニーズ事務所の従業員を新会社に移行させる旨の東山氏の発言が気になった。申し合わせてなかったのだろうが、結果的に全員移籍であっても「性加害行為を行っていないか、また、黙認していないか等を十分確認の上、適切な人材については」と言うべきところである。元ジャニーズの人達が今も問題の所在を十分理解していないなと感じた。
6 その他
記者会見は2時間であった。1社1問に記者からは不満の声もあがっていたようであるが、記者の満足が記者会見の獲得目標ではないし、記者会見は責任追及の法廷ではないし、記者会見は真相究明の場所でもないので別に気にすることはない。
記者の質問も、自分の書きたい記事があってそれに沿う発言を求める質問が多かったので、聞いても聞かなくても記事の内容は変わらないと思われる。
記者会見というのは、発表事項を記事にしてもらって、一般の人に伝えることが主目的である。そもそも、ネットで公開している記者会見である。記者の意図がどうであれ、発信された情報は一般の視聴者に伝わるのである。
こういう場合に、記者にいつまでもつきあっても得られるものが無いので、時間はあの程度でいいと感じた。
で、弁護士ならではの防御ラインと獲得目標の話である。
まず、防御ラインであるが、
東山氏自身の性加害について、東山氏は今回「セクハラをしたことはないです」と言い切っていた。
前回は、途中で発言を変遷させてふにゃふにゃだったが、ここは練習して無いと断言して切り抜けれると判断して防御ラインに設定したのであろう。
しかし、東山氏からの性被害が連日報道されている状況で、この防御ラインはなかなかリスキーな判断である。
他方「セクハラはありません」で終わらせてしまったのは、質問している記者の準備不足であり、コタツ記事に慣れすぎである。
もし、望月記者が質問したらどうなっただろうと思わせる内容だった。
性被害を、知らなかったということ点について、
一番知らなかったではすまない性加害認定の高裁判決について、みんなが口を揃えて、ジャニーさんが「弁護士が悪かった」と言ってたのでそう思ったという旨の説明をしていた。従前の発言との繋がりもあって、おそらくそこに防御ラインを設定するしかなかったのであろう。
それでも、判決が出た以上は、疑われるようなことは止めさせるのが役員の責任と考えるのが通常である。この防御ラインはじり貧の疑いがある。
また、弁護士が悪かったは、あの事件の代理人の某弁護士も了解したうえでの発言だと思うが、これまでいろんな件でお世話になっている弁護士先生を犠牲にするのは見ていてヒヤヒヤものであった。
獲得目標については、
今回は、タレントの活動継続とかなり割り切ったようである。
前回のまさかのゼロ回答から、資本は藤島氏とは別の別会社に移行、藤島氏は新会社の役員にならない、元ジャニーズ事務所は事業廃止、社名変更、藤島氏は相続税を支払う等てんこ盛りである。お土産たくさんなので今回はメディアやスポンサーサイドの理解も得られると判断したのであろう。
たしかに、タレントの活動維持を考えるなら、ジャニーズのない綺麗な新会社にタレントの契約を移行させて、タレントには罪がないと報じてもらうのが一番であり、スキームの方向性には問題無いと思う。
ただ、自らの性加害が報道されるジャニー氏の後継者の東山氏が新会社の代表取締役になるというのは、いつまでも東山氏による性加害の報道がされて、離れたスポンサーが戻る切っ掛けを失う危険がある。記者会見も東山氏の資質についての質問が多かった気がする。これは全体のスキームを台無しにするくらいかなりリスキーである。
もしかして、藤島氏が、事業が全くの他人の手に渡るのが嫌で、東山社長に最後までこだわったのかもしれない。しかし、東山氏は、スマイルカンパニーに専念して、補償が終わってから、自己の処遇を検討するでもよかったのかもしれない。
結局のところ、この点がひっかかって、記者には、元ジャニーズ事務所が、性被害を生む体質から完全に決別したとは見えなかったのかもしれない。前回の記者会見の後に見られた、あらかじめ仕込んでいたような報道は今回は見られなかった。
最後に、重い十字架を背負い続けて補償のみを目的とする会社の社名を「スマイルアップ」にしたのは、誰のアドバイスか解らないが悪い冗談にしか思えない。
以上が今回の記者会見の総括である。
今回の記事を見て、戦略的思考に基づくPR活動に興味をもったお方は・・・・・
弁護士以外の人が読んでも面白いと思うので、ご購入お願いします。。
【追記】
あの記者会見で、PR会社の人が「指名NGリスト」を作って会場に持参したようである。
ジャニー喜多川氏の性加害の問題をめぐりジャニーズ事務所が2日に記者会見を開いた際、事務所から会見の運営を任されていた会社側が、複数の記者やフリージャーナリストの名前や写真を載せて質問の指名をしないようにする「NGリスト」を会場に持参していたことが関係者への取材でわかりました。
望月記者が会場で必要以上に暴れていたもの、指名NGリストに気づいていたからかもしれない。
私の経験でいうと、PR会社は、こっち側のメディアリストとか敵側のメディアリストとかを作りたがるし、そういうのを作ったり、記事を仕込んだりするのが仕事ができる会社と受け取られがちである。
ただ、私が聞く範囲では指名NGリストまで作ることは少ない。指名NGリストがバレると炎上必至なので、間違っても会場に持ち込ませない。
私がNGリスト自体をNGと考えるのは、指名NGリストを作ると全員NGにしたくなるくらいのアウェイゲームを想定してるからである。
実際にNGリストは不要である。本当にNGな記者はなんとか理屈をつけて記者会見に入れないのがセオリーだし、それでも記者会見に来てしまったら公平に扱えばいいのである。
仮に、NG記者から変な質問が来たら、あまりに記者会見の趣旨に反した質問は、司会者で引き取ってしまえばいいし、1社1問なんだから1回答えれば済むことだし、そもそも、嫌な質問に答えるために記者会見の練習をして防御ラインの設定をしているのである。
もし、東山氏が望月記者の質問に耐えられないと判断したので、あえて一部の記者を指名NGにしたのであれば、そもそも、東山氏を新会社の社長にするというスキーム自体に無理があったことになる。
そこで獲得目標とスキームの整合性を再検討するべきだったのではないか?
私の経験上、クライアントはすぐに「バレなかったら大丈夫ですよね?」ということを聞いてくるが、自分達が思うより、こういうのはすぐにめくれるという良い教材である。
そして、バレたときのリスクも考えて対応するのが弁護士の考えるコンプライアンスである。
この記者会見は、CCOとして山田弁護士が出席していたのが、なかなかな皮肉である。